アニメミライ作品『わすれなぐも』監督インタビュー
『わすれなぐも』が参加する「アニメミライ」プロジェクトは若手アニメーターの人材育成を目的のひとつとしている。名前に冠してしてある言葉の通りに、「ミライ」へと続く一歩を踏み出す後押しのプロジェクトとも言える。そういう意味では、I.Gにとっても次世代への架け橋となる企画である。そんなミライへ向けた動きとして制作された『わすれなぐも』はどんな人たちによって産みだされたのだろうか。
今回は監督の海谷敏久氏にスポットライトを当て、新時代を切り開く新たな胎動を先取りしてみたいと思う。
一枚のイラストからスタートした「わすれなぐも」
—今回、海谷さんは監督、そして原案としてクレジットされていますが、この「わすれなぐも」という作品を思いついたきっかけは何だったのでしょう?
海谷:2年前に頼まれて描いた1枚のイラストがあって。アニメーター有志で作っていた同人誌用に描いたイラストなんですけど、それを見たプロデューサーの寺川さん(※1)が「このイラストから物語を創れないか?」というところから始まったんです。
—なぜこのイラストを描こうと思ったんですか?
海谷:その本には一応お題がでていて。それが「お伽話」ということで、お姫様を描いたんです。ただ、そのお姫様の、ちらっと見えている脚が、虫とか、そんな脚になっているのが面白いかなと。全て思いつきですが。
—蜘蛛の脚でホラーチックなテイストを足したという感じでしょうか。
海谷:いや、その時は蜘蛛ではなくゴキブリっぽい脚だったんです。一番身近で気持ち悪い虫ということで。ただ、作品にしようとなった時に脚本の谷村さん(※2)から「ゴキブリはやめてくれ」と言われて(笑)。じゃあ蜘蛛で、というところに落ち着いたんです。
—女の子を可愛く描くだけではなくて、何か一味付け加えるということ意識的にされているんですか?
海谷:そうですね、何かひとネタ付け足したいかなとは思いますね。
—今回はそのひとネタが蜘蛛の脚だったわけですね。
海谷:この絵を描こうと思ったときには最初から下半身が虫という事を考えていましたが、そういう変な趣味は無いつもりなんですけど(笑)。怪談やホラーは好きなので、そういう趣味が絵に出てしまったのだと思います。今回はたまたま、思いつきです。
—虫に惹かれるものがあるのでしょうか?
海谷:普通の男の子として、カブトムシとかクワガタは好きでしたけど、その程度ですね。別段標本を買うとかそういうこともないですし。
—本当にたまたまだったんですね。
海谷:たまたまです(笑)。
—可愛いものにプラスホラーという感じで絵を描く事が多いのでしょうか?
海谷:そうなんですかね…そうかもしれませんね。
—プライベートで女の子を描くときは、どちらかと言えば小さい女の子を描く事が多いのですか?
海谷:なんか質問が意図的な方向へ行っている気がしますが(笑)。
—I.G石川社長が「こんなに女の子を可愛らしく動かせるなんて」とコメントされているという話も聞きました。どちらかと言うと「萌え系」に分類されるキャラクターだと思いますが、小さい可愛らしい女の子を描く事が得意なスタッフ陣だったのでしょうか?
海谷:キャラには、キャラクターデザインの高橋英樹さん(※3)の色が良く出ていますね。
メインキャラクターのキャラクターデザイン
海谷:蜘蛛の妖怪の話でいきなり大きな蜘蛛が出てくると怖いじゃないですか。だから小さい女の子したという面もあります。古書から親蜘蛛サイズがどーんと出てきたら、みんなやられちゃいますからね。娘蜘蛛くらいの女の子蜘蛛が出てきても、脚が虫っぽいだけで怖さがあると思います。
—キャラクターのデザイン部分でお伺いしたいのですが、陰陽師と硯が似ているのは理由があるんでしょうか?
海谷:陰陽師の戦闘シーンは、過去の映像インサートというわけではなくて、硯が本を読みあげているシーンなんです。だから陰陽師の顔が読み手の硯と一緒というわけです。
—あまりに顔が似ているので、陰陽師の子孫が硯だった!というオチを想像していました(笑)。
海谷:ちょっと分かりづらいかなと思って、陰陽師にメガネをかけさせるかどうか迷っていたくらいです。でも時代設定的に、メガネというのもおかしいかなと思い、結局は現状のデザインになりました。
—キャラクタ― デザインは企画初期から決定稿まで、変化はありましたか?
海谷:硯や瑞紀のデザインは数案ありました。硯は髪がウェーブだったり、瑞紀もメガネっ子だったり、ショートヘアでもちょっと雰囲気が違ったり。結局、最終デザインは企画初期のイメージに近い形で落ち着きました。
—瑞紀の服などはどれも可愛らしいですね。
海谷:高橋さんがオシャレ番長なので(笑)。
—キャラクタ―たちもそれぞれ魅力的な動きをしていますね。動きなどについて気をつけていた事はありますか?
海谷:全員がピシッと直立しているよりも、すこし傾いたりしているほうが人間らしさがでるので、そういう部分は意識しました。娘蜘蛛の動きについては、人として自然な動きというよりは、昆虫の脚のリアルな動きを意識しました。上半身は可愛らしいのに、脚は本当に蜘蛛っぽい、そうしたギャップが面白いかなと思ったんです。全部が可愛らしい動きだと、味がでないですから。
- ※1寺川さん
- 寺川英和(てらかわ ひでかず)/プロダクション I.G所属 「わすれなぐも」プロデューサーを務めた。主なプロデュース作品に映画「人狼 JIN-ROH」(2000)、映画「テイルズ オブ ヴェスペリア ~The First Strike~」(2009)などがある。
- ※2谷村さん
- 谷村大四郎(たにむら だいしろう)/プロダクション I.G所属 「わすれなぐも」脚本。代表作にTV「獣の奏者 エリン」(2009)、TV「よんでますよ、アザゼルさん。」(2010)、TV「APPLESEED ⅩⅢ」(2011)など。
- ※3高橋英樹さん
- 高橋英樹(たかはし ひでき)/アニメーター。「わすれなぐも」キャラクターデザイン、作画監督を務めた。代表作に映画「劇場版 天地無用! in LOVE2 遙かなる想い」(1999/総作画監督・キャラクタ― デザイン)、映画「新暗行御史」(2004/総作画監督)など。
小さなエピソードが集まって、ひとつの話になった『わすれなぐも』
—ストーリーについて伺います。蜘蛛の妖怪の話は伝承などでいくつか残っていますが、今回はそういったものを参照されましたか? 作品冒頭にある戦闘シーンの蜘蛛は江戸時代の妖怪画で有名な鳥山石燕の『画図百鬼夜行』の絡新婦(じょろうぐも)がヒントでしょうか。
海谷:そうなんですか、今初めて知りました(笑)。脚本の谷村さんが色々と参考文献や資料を調べてくれて、それっぽく仕上げてくれたんだと思います。情報をチョイスしてくれて「こんな感じで~」と指示を書いていただいているので。
—企画初期のストーリーメモのような資料を見ると、小ネタがたくさん描かれていますね。
海谷:思いつき程度のメモも結構ありましたからね。そういう小ネタを持ち寄って「このネタはこうしたほうが面白いんじゃないか」「このエピソードはもっと膨らませて、こんな感じにしよう」というような話し合いを繰り返していました。今、当時の資料を見返すとバラバラでちょっとわかりにくいですね。
—細かいエピソードたちを、どのようにしてひとつの話しにまとめていったのですか?
海谷:小ネタを集めて、脚本家の谷村さんと打ち合わせをして創っていきました。そぎ落とすところと、膨らませるところを決めていった感じです。
—監督として「ここは活かしたい」と意識した部分はありますか?
海谷:古本屋で蜘蛛の形の影が横切る、とか。硯さんが娘蜘蛛に手を差し出すとチクっと刺す…とか。小ネタは活かしたいなと思っていましたね。打ち合わせの時に「本から娘蜘蛛が抜けだしてくるんだよ!」と話すと、谷村さんが「で、それから?」と。「いや、まだ先はわからないけど…。で、手を出すとチクって刺すんだよ。」「ほうほう、でその後は?」「…知らない。」というやり取りをしていました(笑)。
—そういったやり取りを経て、谷村さんがまとめてくれた、ということですね。
海谷:あのやり取りで、よく1本のお話にまとめてくれたと思います。素晴らしいです。
—「わすれなぐも」は前半コメディタッチで明るいストーリーかなと感じますが、後半がらりと雰囲気が変わりますね。
海谷:最初から、プロデューサーの寺川さんとは「怖いものを作りたいね」と話していたんですが、コンテを描き進めていても、なかなか怖くならなくて。これはマズイと思いましたね(笑)。
—I.G石川社長が「わすれなぐも」を観た後、脚本の谷村さんに「最後、面白い展開だったじゃないか!」と話しかけたら、谷村さんが「あそこは僕じゃないんです」と話されたらしいです。
海谷:ラストを変更したのは、制作の中盤頃だったかな。(谷村さんには)本当に悪い事をしました。
—後半に入ると、色が全体的に暗くなったり、影が多くなったり。カメラワークも変わってきますね。意識的に演出されたのでしょうか?
海谷:やっぱり暗くしないと怖くならないですからね。明るいところで娘蜘蛛が脚を広げて襲ってきても怖くないかな、と。カメラワークは、絵コンテを描いているときは意識していなかったんですが、恐怖の対象を見せない演出というところは趣味が出たのかもしれません。
—「怖さ」の表現について、手応えは感じましたか?
海谷:監督、演出という立場は勿論、絵コンテを描いたのも今回が初めてだったので、そのあたりは考えた事がないですね。
スタッフのアイデアや遊び心は、どんどん取り入れる
—タイトルを「わすれなぐも」とされたのには、何か理由があったのでしょうか?
海谷:タイトルアイデアは僕ではないんです。やはり脚本家の谷村さんにお任せして(笑)。
—監督が作品全体をコントロールしている、というわけではないんですね。
海谷:あまり考えすぎず、拘りすぎず、その道のプロに任せるとちゃんとできるんですよ(笑)。
—キャラクターデザイン、作画監督の高橋さんは海谷さんの推薦だったということですが、高橋さんの魅力はどんなところでしょう?
海谷:監督と作画監督という関係ではないですが、しばらく一緒にお仕事をさせていただいているので、高橋さんの実力はよくわかっていました。何度も助けていただいたりしていましたし。彼の絵の魅力は、やはり可愛らしいキャラクターが描けるところですよね。
—「わすれなぐも」は高橋さんの可愛らしいキャラクターと、監督のホラーテイストとのギャップが魅力になっていますよね。
—海谷さんは今回が初監督ということでしたが、どんなところに苦労されましたか?
海谷:コンテを初めて描いたんですが、カット数が多くなってしまったことと、尺の問題ですね。最終的には377カットになってるんですが、当初はコンテを半分くらい描いた段階で300カットを超えていて。描いても描いても終わらなくて「監督、もう無理ですよ」なんて事もいわれて。元のコンテのまま作っていたら、余計なエピソードなんかもあったので間延びしていたと思います。結構落としたカットがありますが、最終的には良かったとおもいます。
—欠番になってしまったけど、是非入れたかったというシーンはありましたか?
海谷:カラスと戦うシーンは入れたかったですね。硯と瑞紀、娘蜘蛛が商店街を歩いているシーン、犬に吠えられて娘蜘蛛が逃げ回るあたりに、カラスと戦うシーンがあったんです。まあ、戦うというか、戦った後のシーンになるんですけど。
—そのシーンの気に入っていた部分や、思い入れはどんなところにあるんですか?
海谷:初期のアイデア出し段階から、カラスが蜘蛛の糸に捕らわれて電柱に絡まっているというシーン構想があったんです。凄くやりたかった所だったのですが、もうここくらいしか切るところがない、となって。ここ以外はテンポの問題で切ったんですが、カラスのシーンだけは要らないわけではなく、長すぎて切らざるを得なかったんです。ほとんど出来上がっていたんですが。
—カラスが苦しんでいる、というシーンは洋画ホラーの定番ですね。やはりそういったシーンを加えることでホラーっぽさを出したかったということですか?
海谷:でも、絵はあんまりホラーっぽくなってなかったんですけどね(笑)。このカラスのシーンは、娘蜘蛛に瑞紀が鼻を刺されるシーンの後だったんです。だからこの欠番カット中に出てくる瑞紀は鼻に絆創膏を貼っています。電車に乗っているシーンでも絆創膏をしているはずなんですが、これは小さすぎて見えないんです。他にも小ネタがちょこちょこあって。高橋さんが悪戯で、本屋のシーンのレイアウトにI.G作品の某キャラクターの脚を描いていたり。脚だけなんで、わからないと思いますが。
—スタッフさんの遊び心やアイデアを取り入れていったということですね。
海谷:そうですね。作画監督補佐の山田(勝哉)さんが電車のシーンで車両を2両編成にしていて、「アレ?」ってなった事もありました。お渡しした資料の写真は単線の1両編成だったんですが、「僕はこうだと思うんです」ってコメントが書いてあって。
—スタッフさんのアイデア、持ち味を活かしていったという感じですね。でも各人が個性を発揮していくと、全体の調整が大変になったりしないのでしょうか?
海谷:自分にそれほど拘りがないので、その辺りは苦労とは感じませんでしたね(笑)。逆にどんどんやってください、っていう感じでした。今回は新人さんにも課題を出して、細かい指示は出さずにお任せしました。自分で考えてもらって構わない、逆にどんどんやりなさいと言い聞かせました。
—具体的にはどんな課題を出されたのでしょう?
海谷:頻繁に出てくる小物などは高橋さんにお願いしましたが、例えば、硯が商店街で引いているカート。これを自分で描きなさい、と設定を作らせたり。本屋のシーンで瑞紀がもっているハタキ、TVに映っているヒーローや怪人も作りなさいと言いました。
—小物設定の資料が少ないのは、そういった事からだったんですね。
海谷:制作担当だった岩瀬君が気が回りすぎて、「これの設定も必要ですか?」「あれの設定も必要ですか?」と先回りして考えてくれたんですが、作画さんに任せていいんだよと諭した事もありました。スタッフみんなの机が近かったので、お互いに話し合ったり、アイデアを描き合いながら進めていましたね。
教えるというのはおこがましい。作画の「考え方」を伝えたい。
—「わすれなぐも」は若手アニメーター育成事業アニメミライ(※1)の参加作品ですね。事業の目的としてアニメーター育成という課題があったと思いますが、人を育てる立場で指揮をとられた感想はいかがですか?
海谷:アニメミライが始まる前からI.Gの新人アニメーター数名の面倒をみたりしているので、その延長線上という感じでしたね。人数が増えたな、というくらいで。どちらかというと楽だったような気がしますね。
—「人に教える」というのは難しいことだという印象ですが、楽だったんですか?
海谷:教えるというのはおこがましい感じがしますね。1から10までべったり指示をするという事ではなくて。タイムシートの書き方やつけ方、アイレベルやパースの説明くらいで、あとは自力で上手になってもらうしかないので。自分が作画監督をしていると、時間が無い時などは自分でやらざるを得ないんですが、リテイク指示をして、他のアニメーターさんに直してもらうというのは楽なところもありますね(笑)。
—つきっきりで教える、というよりも、自由にやらせて良いところを伸ばすという感じでしょうか?
海谷:そうですね。あんまり「ああしろ」「こうしろ」とは言わないようにしています。今回は絵コンテも描いて、さらに演出もしているので、演出意図を伝える上で「こうしてほしい」とは言ったんですが、あんまり強制はせずに、「自分はどうしたいのか?」「そのためにはどうしたらいいのか?」…そういう事を考えてやってもらうようにしていました。本人がしっかり考えた上であれば間違ってもいいじゃないかという気持ちでいました。
—細かい指示を出さない、本人たちに考えさせる。このやり方で困ったことはありましたか?
海谷:キャラクターの位置や目線が微妙にずれている、というような時ですね。細かく指示をださないと、さじ加減が個人によって異なるので伝わりきらないというか。まあ、大きく外れていなければ良いかなとは思っていましたが。僕自身がもの凄く上手いアニメーターというわけではないので、「こうしなさい」と指示したことが絶対に正しいという自信がないということもあるかもしれません。今はそれが正しくても、いずれその描き方は古いよと言われる時が来るでしょうし。ただ、作画の基礎的な考え方だけは教えられればいいなと思っています。
—作画の考え方、というのは?
海谷:例えば歩いているカットでも「どう歩いているのか」を想像することですね。放心状態で歩いているのか、何か考えながら歩いているのか。楽しいのか、悲しいのか。仮に悲しくて俯いて歩いている場合なら、なんで悲しんでいるのか。「財布を落として悲しい気持ちを表現するにはこの角度で俯かせて」と指示してもしょうがない。悲しみの度合いは数値にすることはできないので、そういった部分を自分で考えるということですね。
—「ゆとり世代」というような言葉で表わされることのある若い世代ですが、今回若手スタッフと向き合ってみて、彼らにどのような印象を持ちましたか?
海谷:上の世代の人は必ずといっていいくらい「今の若いやつは…」と言うものなので。それは自分たちも若い時に言われていた事だと思います(笑)。もちろん、そういうことが無かった訳ではないですが、みんななんとか上手くやってくれましたね。僕だけではなくて、高橋さんもいらっしゃいましたし。
—「わすれなぐも」の中には、新人さんへの課題と見受けられるシーンが多くあります。たとえば、硯が階段を下りてサンダルを履くという一連の動きなどは、大変そうだな、と思ったのですが…。
海谷:ちょっと大変にしよう、という意図はありましたね(笑)。
—この他にも試練というか、課題として与えたカットはありますか?
海谷:本屋のシーンの中で、座っていた硯が階段をおりて、もう一度座ってから本を取って見るシーンなんかは2~3カットに分かれていたものを纏めて長回しにしたり。このシーンは撮影時のレンダリングに1時間くらいかかってましたね(笑)。
—ぱっと見はそんなに大変に見えなくても、映像にするのは大変なんですね。
海谷:このカットは一番最後に原画が上がって、一番最後に動画に入ったんです。原画はI.G新潟から出向していた若手一人の方に担当してもらいました。また、動画をI.G新潟さんで3~4人に手分けして作業していただきました。結果的に原画も動画もI.G新潟さんで担当してもらえる形になり大変たすかりました。
—古本のお札が外れて、瑞紀のほぼ全身を付けPANで追いかけるシーンなんかも大変そうですよね。
海谷:これも本来は瑞紀を1枚で描いても十分なんですけど、視点が動いているので、カットをくっつけているんですよ。半分やけくそになっていたかもしれません(笑)。
—なにげないシーンにも課題的な部分がちりばめられているんですね。
海谷:じゃないか、と思います。
—「わすれなぐも」演出で拘った部分はありますか?
海谷:物語後半の、カメラアングルが傾いたり逆さまになってたりするあたりですね。難しい構図なので、担当したスタッフに「描けないよ~」と言われました、相当苦しんでいました(笑)。演出意図というよりは、自分の趣味だったんですが。
—そのような画面作りは前々から挑戦してみたかったのですか?
海谷:いや、そういうわけでもないですが。ただ、折角やるんだから色々挑戦してみようという流れで。前半のコンテを見返したとき、画面構成が単調になっていることに気付いて、メリハリを出したかったというのもあります。高橋さんが書いた「オニ~!」というメモが入っていたりしました(笑)。
—難しい構図の楽しさは、どんな所にあるのでしょう?
海谷:明確な答えはないんですが。単純に描いていて面白い、というところではないかと。僕は楽しいですけど、苦しんでいる人が結構いました(笑)。1カットに一週間かかってしまう、と言う事もあったようです。
—監督がちょっと意地悪な人と思われているかもしれませんね(笑)。
海谷:(笑)。でもそんな感覚でやっていましたけどね。
—ご自身が作画として参加する作品でこんな仕事がまわってきたらどうしますか?
海谷:やりたくないですね(笑)。
- ※1若手アニメーター育成事業アニメミライ
- アニメミライとは、アニメ制作環境の問題解決に正面から取り組み、我が国アニメの振興を図ることを目的として、昨年度から新たに始まった文化庁のプロジェクトです。くわしくは公式サイトをご確認ください→http://animemirai.jp/
海谷敏久 (かいや としひさ)
1967年6月1日生まれ。亜細亜堂に入社。『燃える!お兄さん』(1988)で原画デビュー。『ミラクル☆ガールズ』(1993)で初の作画監督を担当する。フリーランスとなって以降、プロダクション I.G作品に多く参加。劇場『人狼 JIN-ROH』(2000/原画)、『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ(2002~/作画監督・原画)、『IGPX -Immortal Grand Prix-』(2005/キャラクターデザイン・作画監督)
趣味は怪談を読む事。特に稲川淳二をこよなく愛している。 『わすれなぐも』は初監督作品となる。