作品紹介イノセンス

2003年6月2日(月)

月曜日から金曜日まで、土日休みで単身赴任状態のカントク。
週明けに熱海からはるばる新幹線でやってくると、机の上は仕事の山。
これがカット袋の山であればいうことはないのだが、現実はそれにあらず。
各種掲載紙や原稿の校正、講演やら執筆の依頼書のたぐいから、そのほか連絡事項のFAXやらメモやらが所狭しと並べられ、監督チェック待ちのカットは申し訳程度にいくつかが片隅に置かれているのみという、トホホな状態。

亀の歩みの「イノセンス」。完成まで、あと7カ月。

2003年6月3日(火)

DFJ(ドール・フォーラム・ジャパン)の小川さん来社。
取材などで大変お世話になっている人形関係のスペシャリストで、カントクは個人的にもなにかとお世話になっているらしい。
カントクさぁ、女性に対する態度がわかりやす過ぎるんだよねー。
見えない尻尾をちぎれんばかりに振ってるぞ。

2003年6月4日(水)

スタジオジブリにて宣伝関係の会議。
毎度、鈴木敏夫氏の話はおもしろいのだが、映画の知識と読書量の多さから、話についていけずに置いてけぼりにされてしまうこともしばしば。
同席の人たちもおおむねそんなカンジ、というか、唯一真っ当にやりあっているのはカントクだけじゃん。
この2人、アドリブでやってるにしては、掛け合いが濃過ぎるんだよね。
裏でコッソリと仕込みでもやってるんじゃないのか?
などと思っていたら、会議終了後、カントクはさらに鈴木氏と話があるとかで別室へ。

仕込みだ……絶対仕込みだ……。

2003年6月5日(木)

カントクが、いつもの時間になっても現われない。
社外で打ち合わせの予定があるので、出かけなければならないのを、ぎりぎりまで待ったのだが、時間切れ。
不思議と用事があるときに限って遅いんだよね。
打ち合わせを済ませて大急ぎで戻ってくると、今まで居たらしいカントクの姿がもう見えない。タッチの差で帰ってしまったらしい。
メモは見ているはずなのに、返答なし。
う~む……逃げられたか……。
この独特の嗅覚というかカンのようなものは、いかにして身に着けたのやら……。

今度聞いてみよう。

2003年6月6日(金)

カントクは石川氏と共に名古屋へ。
JDAF(ジャパン・デジタル・アニメーション・フェスティバル)2003というイベントに参加するそうな。
愛犬が待つ我家のある熱海を通り越して、遠く名古屋まで行かねばならぬとは。
しかし、カントクのことですから、途中で降りたいとかなんとか駄々をこねては、またいつものように石川氏を困らせているに違いないので、同情は無用です。

2003年6月9日(月)

今日もメイキング取材班を悩ませる、地道な作業の繰り返し。
ファインダーの中は、いつも同じ光景。
こつこつと、ただひたすらに、こつこつと。

カントク、今日は原稿のアップ日です。
少しはスタッフを見習ってください。

2003年6月10日(火)

今日明日で予定されていたカントクの自宅引っ越しは、延期になったそうな。
なんでも、新居のリフォーム工事が遅れているとかで、再来週になってしまうらしい。
確か当初の予定では、ゴールデンウイーク明けには移動できるはずだったような……。
すると今の押井邸は、1カ月以上もずっと「引っ越し前夜」というお祭り状態のままなのだろうか……?

いつぞや鈴木敏夫氏が言っていた、「人は己の言葉に復讐される。監督は己の作品に呪われる」というせりふを思い出さずにはいられない今日このごろ。

クワバラクワバラ……。

2003年6月11日(水)

引っ越しをしそこねたので、仕方なく通常業務に就くカントク。
「仕方なく」って、背中に書いてあります。

前述の小川さんからお借りした人形が、甚く気に入った様子のカントク。
プロおすすめの人形だけあって、さすがに出来の良さはハンパじゃないが、それをいじくりまわすカントクの姿は、お世辞にも美しいとは言い難いなぁ。

コラコラ、そんなところをのぞかない!……むいちゃダメだってば!

2003年6月12日(木)

竹内敦志氏と作画打ち合わせ。
夕方、CGIチェックのため、モーターライズへ。

机の上に忘れ物が1つ。食べかけのアンパン。
季節柄、これを放って置くと、トンデモないことになりそうなので、処分する。
食べかけだろうがなんだろうが、空腹時のカントクにとってはゴチソウに見えるらしいので、放置は危険です。

2003年6月23日(月)

熱海の自宅引っ越しのため、カントクは今日と明日はお休み。
新居の工期が当初の予定よりも大幅にずれ込んだせいで、当てにしていた応援部隊の都合がつかず、梱包と開梱をすべて自前でやらなければならなくなったとボヤいていたが、ダイジャビなのか? 各種資料本やら参考文献だけでもかなりの量だが、コツコツとため込んだ犬グッズが膨大な量あるはずだし、モデルガンとか無可動銃なども大量にあったような……。
さぞや今ごろは、無軌道な収集癖を悔いていることであろう。(合掌)

2003年6月24日(火)

カントクの新居に電話をかけた石川氏曰く、「電話の向うでバタバタと走り回ってて、スンゴク大変そうだったよ、息が上がってたもんなぁ……でも、も1回かけちゃおう」

……お、鬼だ……。

2003年6月25日(水)

スタジオにてメイキング用ロングインタビューの第1回目。
最初からそんなに飛ばしてダイジャビなのか?
編集でカットしてもらえば大丈夫、とか思ってると、あとでとんでもないことになったり……ま、いっか。

2003年6月26日(木)

カントクは今日も不在。
某地方都市でのイベントのための打ち合わせだとか。
忙しいのは暇で居るより結構なことだが、最近は「なんでそんなことまで?」と思うようなことにまで手を染めていたりする。
これは、アニメでできなかったことを実写に求めたように、映画ではできないことをほかに求め始めたということか?

2003年6月27日(金)

スタジオジブリにてプロモーションビデオと劇場用特報フィルムの試写。
いよいよ宣伝展開が本格的に始まろうとしている。
後の打ち合わせ時に、各種媒体へ向けての動きも始まっていると聞く。
鈴木敏夫氏が精力的に動いてくれているのだが、あいかわらず押井氏は「きっとなにか企んでるに決まってる」と懐疑的である。
思っていてもいいから、偉い人たちの前で言うなよ……とほほ……。

少しだけ「ハウルの動く城」の現場に顔を出す。
宮崎氏は、押井氏が行くといつもうれしそうだ。言うことは乱暴だけどね。

CGIのチェックのため、カントクはそのままモーターライズへ。

2003年6月30日(月)

カントクは件の某地方都市に出張のため、終日不在。
この時期の現場に、こんなに頻繁に監督不在で良いのか?
否! 良いわけがない!
ここはひとつ、意見してやらねば。……と思ったので、先日言ってみた。
「押井さん、最近留守が多すぎますよ、なんとかしてください」
「四六時中あちこちのスタッフのうしろに俺が張り付いて、あーでもない、こーでもないとわめき散らしてるのと、どっちがいい?」

……行ってらっしゃい(はぁと)。