2006年9月1日より、パーフェクトチョイス160にて放送が開始される『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』(以下『S.S.S.』)。それは『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』から2年、Production I.G 第9スタジオ7年の成果と、勝ち得たものの結晶だ。制作を終えたメインスタッフに、『S.S.S.』の魅力と、本作の見所、制作時の話についてうかがった。

第1回 西村知恭プロデューサー「いまは作った、という感じが強いですね。」

PROFILE

名前
にしむら・ともひさ
経歴
劇場作品『サクラ大戦 活動写真』を経て、制作デスクとして『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』に参加。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』でプロデューサーを務める。「気持ちよく仕事するためには、掃除は欠かせませんね」(西村知恭)
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「(テレビ)シリーズとはいいながらもシリーズのレイアウトではないし…直球勝負というか、逃げないレイアウトの取り方をしていたので。今のアニメはなるべく大変なことは省こうという絵作りをしてるんですけど、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(以下、『攻殻 S.A.C.』)はもう直球で。」

『攻殻 S.A.C.』シリーズをそう振り返る西村知恭プロデューサー。ストイックなまでに真摯に作品と向き合う神山(健治)監督のよき理解者であり、パートナーだ。そんな西村プロデューサーにとって『S.S.S.』はどんな作品に仕上がったのだろうか?

「今回全編を通して、3Dレイアウトシステムというのを組んでいて、これがクオリティアップに役立ちました。スケジュール的にもかなり助けられました。
 3Dレイアウトとは、建物の中を先に3Dで組んでしまうものですが、極端にいえば、3Dさんと演出さんで大枠のレイアウトを決め込んで、
作打ち(作画に関する打ち合わせ)に入る前にレイアウトが上がってるというものです。もちろん後から原画さんがブラッシュアップすることもありますが、
全編を通してのクオリティアップにつながっていると思います。
 また、総作画監督で後藤隆幸さんに立っていただけたことも大きいです。全編に渡って後藤さんの手が入っているので、かなり統一された絵になっていると思います」

演出、作画、動画と、1カット、1カットを大勢の手によって仕上げていくアニメ制作において、いかにそのカットに関わる人の間で意思の疎通が図れているかは、クオリティを維持していく上で大きい。本作の制作工程では、さらにライティングボードが導入された。

「美術さんに先行してライティングボードを描いてもらったので、シーンごとの絵の作り込みにより一層こだわる事が出来ました。劇場映画では珍しくないと思いますが、作画時にライティングボードがあるというのは、作画監督にとっても参考になったと思います」

『S.S.S.』では、主要なシーンごとにライティングボードが描かれ、光源の位置が明確になっていた。レイアウトや、光源の位置など、ぱっと画面を見て目に付く部分ではないが、どのシーンも一定以上のクオリティで維持していくためには、こうした地道な努力の積み重ねによるところが大きい。
それでも「スケジュールとクオリティ。各セクションを上手く回したかったという悔いは残る」と言い切る。

「スタッフは頑張ってくれたので、いいものはできたと思うんですけど、やっぱり作っていくなかで課題は結構残りましたね。次に活かしていきたいですね」 神山監督のもと、常に最善を目指して仕事に取り組む、プロフェッショナルの姿勢が言葉の端々に感じられた。

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3Dレイアウトの一例。『S.S.S.』の冒頭、トグサたち新生公安9課が空港に立てこもったカ・ゲル大佐を追うシーン。右の柱で銃を構えるのがトグサ、左がアズマ。作打ち時の参考資料として、上のようなレイアウトが用意された。『S.S.S.』では建物内のほぼ全てのカットが、この3Dレイアウトシステムを用いて決められていったという。

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ライティングボードと実際の場面カット。光源の位置が明確になり、演出家や作画監督にとって非常に参考になったという。ライティングボードを手がけたのは、『S.S.S.』の美術監督・竹田悠介氏。

読む前の豆知識
Production I.G 第9スタジオとは…

 現在(2006年8月)、Production I.Gには、第1~第10までの10のスタジオと背景専門の小倉工房や3Dに特化したIGFXなどがある。その中にあって、第9スタジオは『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ制作のために設立されたスタジオといっても過言ではない。

 当初、INGビル内の一部屋にて、制作作業を進めていたが、プロジェクト規模が拡大するにつれて手狭になり、INGビルから引っ越すかたちで、別な場所にスタジオを構えることとなった。

 当時の記録によると第9スタジオ設立当初は、Production I.Gには、第7スタジオまでしか存在していない。にもかかわらず第9と呼称したのは、『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズのテーマ数字が9であったことと、公安9課の“9”に由来するところが大きい。

 第9スタジオの特徴は、制作進行から文芸、作画、演出、仕上げ、3D、撮影と、一フロアでアニメ制作の全工程をまかなえる力を備えている点だ。もちろん、第9スタジオだけでテレビシリーズの制作が行えるわけではない。が、分業の進むアニメ業界にあって、1つのスタジオでアニメ制作の全工程に関する流れができているのは極めて希なことだ。

 そのメリットを、西村プロデューサーはこう述べる。「違う部署の人が近くにいるっていうのはレスポンスも早いし、やりやすいと思いますよ。3Dの人にしても、演出とか撮影の人が近くにいるので、聞きやすいし。第9スタジオの強みだと思いますね」

 スタジオ内は、常に何かしらの緊張感で満たされている。『S.S.S.』の制作時に第9スタジオを何度か訪ねた日産自動車・飯島俊介プロダクトデザイナーの言葉を借りれば「僕たちデザイナーと変わらない緊張感があります。青く燃えるというか、静かにピンと張り詰めた空気感があって。作り手は変わらないんだなって実感しました」

 そんな第9スタジオのこれからの作品群にも期待したい。

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アニメ制作のほぼすべての工程が集約された第9スタジオ内。30名前後のスタッフが常駐している。神山健治監督のお膝元。