9回目となる今回は、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』(以下、『S.S.S.』)で3Dレイアウトを担当された檜垣亮氏。『S.S.S.』の画面クオリティを底上げした、檜垣さんの仕事について伺いました。

第9回 3Dレイアウト 檜垣亮

PROFILE

名前
ひがき りょう
経歴
ディレクター・脚本・プログラマー
1972年8月18日 愛媛県出身。A型。
高等専門学校卒業後、大手自動車メーカーに就職。ゲーム開発会社を経て、プロダクション I.Gに入社、その後フリーに。主な作品 ゲーム、『機動警察パトレイバー ゲームエディション』『エグザスケルトン』『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX -狩人の領域-』ディレクター・脚本・プログラマー。アニメーション、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』3Dレイアウトなど。最新作『精霊の守り人』では脚本として参加。
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——まず、檜垣さんが、『S.S.S.』に参加されたきっかけを教えてください。

 最初、神山(健治)さんから『精霊の守り人』の脚本で参加しないかってお話をいただいたんです。ただ、私が第9スタジオに入ったときはまだ『精霊の守り人』は本格的に動いていなかったんですね。それで、同時進行していた『S.S.S.』に、レイアウトのお手伝いとして入ることになりました。

——3Dレイアウトとは、聞きなれない言葉ですが、具体的にどんなことをされたのですか?

 今回の「3Dレイアウト」というものは、原画さんに渡す参考資料、レイアウトの下書きみたいなものです。レイアウトとはいえ、そのまま美術原図に使えるレベルのものではなくて、あくまで下書きですね。
私の担当作業は、絵コンテを見て、こういうアイレベルで、使うレンズはこんな感じでというのを、パソコン上でラフに組み、演出さんにチェックをしてもらい、修正をした上で、原画さんに渡す、というところまででした。

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——3Dレイアウトは、『S.S.S.』での初めての試みだったのでしょうか?

 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の第13話とか、タチコマがたくさん登場する回では部分的に行われていたようですが、『S.S.S.』ほど全編に渡って導入したのは初めてじゃないでしょうか。
『S.S.S.』では、映画クオリティを目指そうという意気込みがあったので、可能な限りレイアウトをおさえようということになったんです。それでも、カット数は1000を超えている。全てのカットに3Dレイアウトを起こすことは不可能だなあ、と。結局、落としどころとして選んだ項目が、限定空間のみ、スピード最優先で、美術原図は手描き、というところです。

 それらのお題目を、限られた時間で、可能な限り迅速に処理するために、レイアウトツールを作りました。
第9スタジオに来る前まで、ゲームの仕事をしていたので、3Dプログラミングと、3Dモデルを扱うことには慣れていましたので。
具体的には、ゲーム用に私が作ったツール——3D空間上に、3Dモデルを並べて、カメラを置くという、仮想ジオラマツールみたいなものをベースにして、フレームやカメラ位置・角度、レンズ口径、アイレベルの情報が出るように改良していきました。

——どのような使われ方をされたのでしょう?

 『S.S.S.』では、監視カメラから見たカットや、部屋のなかにいる人物を俯瞰で見せるカット、床からキャラクターをあおるカットなど、様々なカットがあります。それらのカットに必要な情報を入れ込みつつ、そのカットが持つ意味や前後の繋がりが、3D空間上で成立するのか?といったところからまず入ります。その後、人物と背景とのバランスなどを調整していきます。
『S.S.S.』では室内での演技が多かったのですが、1シーンを大勢の原画さんにやってもらうとなると、どうしても部屋の広さや置かれている小物の大きさにばらつきがでてしまうんですね。これはもうどうしょうもないことなんですが、そのばらつきを最小限に抑える、ということも狙いの一つでした。あとはキャラクターと物とかの対比の統一ですね。
簡単に言うと、コンテと同じ空間を作って、検証してから原画さんに渡す、という感じです。演出さんや、作画監督さんには、喜んでいただけたみたいです。

——3Dレイアウトが向かない場合もあるのでしょうか?

 そうですね。比較対象物が遠い場合や自然の中でしょうか?それと、カット数が少ない場合ですね。
比較対象が遠く、被写体の周りに何もないような場合だと、フレームの中に必要なパースラインが殆ど入ってこないんですね。これは費用対効果がよろしくない。もう一つの、自然物というのは、3Dでやるとなると、そこそこ見える絵にするだけでも莫大なコストが必要になるんです。
向き不向きというより、費用対効果の問題ですかね。ただ、見せるカットの場合は、これがひっくりかえります。1カットのために、マンション一棟まるごと作り込んだりもしました。

——ほとんどのカットを3Dで起こされたのでしょうか?

 いえ、それはさきほども言ったとおり、3Dレイアウトが不向きなシーンもありますから。それでも、全体の2/3くらいは起こしたのかな。とはいえ、3Dレイアウトは基本直線なので、レイアウトに堅い感じがでてしまうのは否めないですね。

 本来カメラのレンズは丸く湾曲しているので、フレームの外縁部にいけばいくほど丸い歪みが強くなっていくんですね。そういう表現は手描きでないと出せない味だと思います。

 あと、実際に設定どおりにキャラクターを配置してみたけど、どうしてもほしいショットにならないといったケースもありました。もし、手描きなら、この辺をこちらに寄せて、ちょっと距離感つまっちゃうけど、画面はいいよね、という感じで調整できますが、3Dだとそうはいかないんです。嘘がつけないので。絵コンテに描かれた各カットに嘘がないかたちで成立させていくために、モデリングそのものに手を加える場合もありました。

——神山監督とは、どのような仕事をされてきたのでしょう?

 実は、神山さんの作品に携わるのは今回が初めてなんですよね(笑)。数年前、神山さんが音頭をとって、とある企画を立ち上げようとしたことがありまして、その企画立案作業に私も加わらせてもらったんです。それ以後は、無関係ではない仕事をやりつつも、付かず離れず的な距離を保ったまま、ついぞ机を並べることがなかったんです。今回、呼んでもらった事は純粋に嬉しかったですね。一緒に仕事をするようになって、毎日が目から鱗ですよ。『精霊の守り人』でも、それは変わらないですね。『S.S.S.』だけでなく、そちらにもご期待ください。こっそり、3Dレイアウトも起こしてますので。

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