『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』(以下、『S.S.S.』)の演出は、3人の演出家によって行われている。第6回となる今回は、神山健治監督とともに絵コンテを担当し、Cパートの演出を行った吉原正行氏。神山監督との付き合いも長いという吉原氏に、『S.S.S.』を終えての感想を伺った。

第6回 絵コンテ・演出 吉原正行氏「『S.S.S.』はシナリオを読んだ段階から、すべてのシーンが見逃せない、息つく暇がないといった感じの作品に仕上がっています」

PROFILE

名前
よしはら・まさゆき
経歴
P.A.WORKS所属。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズでは、第3話「ささやかな反乱 ANDROID AND I」』、第12話『タチコマの家出 映画監督の夢  ESCAPE FROM』などにて演出、絵コンテを務める。神山健治監督とは、AIC(アニメ・インターナショナルカンパニー)にて神山監督が美術監督を務めていたころからの付き合い。神山監督が厚い信頼を置くスタッフの一人。
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「神山さんは昔から変わらない人ですよ。目的がはっきりしていて。今のような立場での仕事は、僕から見るとなるべくしてなったという感じがします」

神山監督について尋ねると、そう笑顔で答えてくれた吉原氏。公私ともに神山監督とは付き合いがあり、現在ほど携帯電話が普及していなかったときは、よく長電話をしたという。

「初めて自分で絵コンテと作画監督の仕事を請け負ったときに、こっそりアドバイスをいただいたりしていました。演出に関しては、神山さんが師匠です。神山監督の演出助手というかたちで学んだので」

吉原氏によると、神山監督との関係は、「ジャンケンでいうとグーとパーの関係」だという。

「意外に志とか普段の会話が肌に合うんですよ。だから長く付き合ってこれてるんじゃないでしょうか?」

そんな二人が本作の絵コンテを担当している。
「自分が絵コンテを切ったパートだけ演出を行うという形ではなくて、今回は演出を担当した3人が、3人とも別の人の絵コンテを処理してるんですよ。河野(利幸)さんは自分と神山監督の絵コンテを、橘(正紀)さんは神山監督の絵コンテ、僕も神山監督の絵コンテを処理している。
珍しいケースかもしれませんが、これはこれで均一がとれていると僕は思うんです。もちろん、自分で切った絵コンテは最後まで自分で面倒みたいとは思うんですけど(笑)」

絵コンテを切っていく上での注意点とインハウスで制作する良さ

『攻殻 S.A.C.』シリーズでは、刑事ドラマや日常の芝居を描くシーンが多い。『S.S.S.』では豊富なアクションシーンが話題だが、それ以上に日常芝居のシーンに力が入っている。

「実写をカメラマンが撮るならどんな位置から撮るだろう、というのは意識しています。常に稲妻が走って、キャラクターが大ジャンプする、というアニメではないので。日常の刑事ドラマ、人間を描いているという意識は強いです。もっとも公安9課の面々は通常の5割増しの超人ですけどね」

第9スタジオには3DCG、撮影とアニメ制作に関わるセクションがそろっているが、本作もそういったインハウスで制作を進める体制には助けられたという。

「たとえば高速道路をサイトーとバトーが追跡するシーンがあるのですが、このシーンは気が遠くなるような作業でした。3DCGさんや撮影さんも含めて。影送りには、黄瀬(和哉)さんにも協力してもらいました。
各セクションがストレスに耐え切れないようなスケジュールや状況のなかで、「これ、ここまでやっておいたほうがいいよね」というような持ち出しで、クオリティが上がっていく。自分のセクションではちょっと分からないところは他のセクションにふらっと聞きにいけたりする。そういう環境が良かったですね。インハウスならではの良さです」

『S.S.S.』の作業をそう振り返る吉原氏。そんな吉原氏にお気に入りのシーンを聞いてみた。

「やっぱり荒巻と殿田大佐のシーンでしょうか。実際に神山監督と打ち合わせをしたときにも、いろんな話が出て。原画さんと打ち合わせしているときも、あそこが一番涙が出るというか、好きなところでした。
殿田大佐には記憶障害が出ていて、おかしなことを聞いたりする。その一方で大佐の趣味は相変わらずで。でも、最後に一言荒巻に、「お前は俺に似なくてよかった。トンビが鷹を産んだようで嬉しいぞ」と話しかける。それを受けた荒巻が、静かに頭を下げる。
Cパートって物量が一番多かっただけではなく、アクションシーンも豊富で大変だった記憶しかないんですよ(笑)。すごいところきちゃったな、自分のコンテでBパートがやりたいな、とか思いつつ、この荒巻と殿田大佐のシーンがあることが励みになりましたね。

絵コンテの良し悪し以前に、なんとかしなきゃいけない作品も少なくないなかで、今回は、いかに絵コンテからプラスαできるのか、どう画面を見せていくのか、といった演出本来の仕事をさせてもらったので。いわば本業での苦しみ、本来やるべき仕事での苦労だったので、いい仕事をさせてもらったな、と思いますね」

限られたスケジュールのなかで、苦闘を繰り返したであろう吉原氏。柔和な現在の表情からはおよそ想像できないが、苦労よりも達成できた喜びが多いことが見て取れた。

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『S.S.S.』で吉原氏が演出を担当したCパートの絵コンテ。カット数の多いCパートを3冊に分けて作業していた。各カットの左に赤色鉛筆で塗られている部分は、このカットの進行状態(原画があがった段階、撮影にINした段階など)を示している。吉原氏は、各カットの進行状況を把握しながら作業を進めていたことがわかる。

「Bパートは会話劇なんですが、実はここが一番の見せ場なんじゃないかと思っています。河野(利幸)さんの処理のおかげか、聞けるんですよね。状況説明が中心のパートだったので、中だるみしているのでは? と思っていたのですが……うだうだしているバトーと新生公安9課の他のメンバーとの関わりがよく描かれていて。 コンテマンとしては、アクションシーンより、こういうパートの方がメチャメチャ燃えるんですよ(笑)。ブリーフィングルームにバトーが遅れて入ってきて、トグサが声をかけるみたいなところとか。意外に目先が変わらないので、会話するショットを作るのが難しくてしんどかったんですけど、絵コンテを切っていくのは面白かったです。特にバトーが今みんなにどう思われているんだろうという、バトーの心情の部分を表現するところなど」(吉原正行)

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