「義体 Cyborg Technology」

電脳がマクルーハン的な意味での志向作用の“内爆発”を促進する一方で、物理的な“外爆発”を担うサイボーグ技術——すなわち肉体のさまざまな部位を機械的に補完する義体技術——も大きな発展を見せていた。サイボーグ技術は、戦時中の医療研究から出発しつつ戦後にその実を結び、加速度的な発展を見せた。義体化は、通常のマンパワーを超える身体能力の実現をも可能にするために、医療分野以外にも軍事目的などに利用された。

それと同時に興味深い現象が垣間見られるようになった。ロボットがヒト型に作られることの意義が問われた時代がかつて存在したように、人間自身がヒト型であることの意義もまた問われねばならない時代が到来したのである。というのも、いまや義体の選好は、実用性を超えて、純粋に嗜好の問題に移行しつつあったからだ。そうした事情は、アンドロイド(ヒト型の機械)が一般化していた日常景色に、新たにジェイムスン型サイボーグ(ヒト型でない人間)の入り込む余地も付け加えたのである。

とはいえメンテナンスの手間と費用、身体の他の部位との整合性の困難、および根強い生理的忌避感が、義体の民間への普及を阻み、現状下における義体化率は電脳化率に比べ、かなり低い水準にとどまっている。

義体化に伴う新たな社会問題も醸成された。“サイボーグ”という言葉は、もはや義体化した人間に対する差別語として、その使用を禁止される提案がなされ、生身の人間とサイボーグとの間に、いまだ明確とは言いがたいものの、ある種の差別意識の溝とでも言うべきものが顕在化し始めたのである。