- 各話紹介
- 第1話「公安9課 SECTION-9」
- 第2話「暴走の証明 TESTATION」
- 第3話「ささやかな反乱 ANDROID AND I」
- 第4話「視覚素子は笑う INTERCEPTER」
- 第5話「マネキドリは謡う DECOY」
- 第6話「模倣者は踊る MEME」
- 第7話「偶像崇拝 IDOLATER」
- 第8話「恵まれし者たち MISSING HEARTS」
- 第9話「ネットの闇に棲む男 CHAT! CHAT! CHAT!」
- 第10話「密林航路にうってつけの日 JUNGLE CRUISE」
- 第11話「亜成虫の森で PORTRAITZ」
- 第12話「タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM」
- 第13話「≠テロリスト NOT EQUAL」
- 第14話「全自動資本主義 ¥€$」
- 第15話「機械たちの時間 MACHINES DESIRANTES」
- 第16話「心の隙間 Ag2O」
- 第17話「未完成ラブロマンスの真相 ANGELS' SHARE」
- 第18話「暗殺の二重奏 LOST HERITAGE」
- 第19話「偽装網に抱かれて CAPTIVATED」
- 第20話「消された薬 RE-VIEW」
- 第21話「置き去りの軌跡 ERASER」
- 第22話「疑獄 SCANDAL」
- 第23話「善悪の彼岸 EQUINOX」
- 第24話「孤城落日 ANNIHILATION」
- 第25話「硝煙弾雨 BARRAGE」
- 第26話「公安9課、再び STAND ALONE COMPLEX」
「ゴーストダビング Ghost Dubbing」
身体の物理的境界が、個と個を隔てる最も強力な壁であるという信仰が過去のものとなり、電脳空間内での複数の個の遇有的な戯れが可能になった時代においては、それぞれの身体に帰属する不可侵なゴーストの唯一絶対性がアプリオリに前提されねばならない。そうでなければ、個を個として特定する根拠が失われてしまうからだ。そして当然の帰結として、ゴーストは複製されてはならない。
ゴーストハックが個人の自由意志の侵犯を通して、個の存在あるいは形態をおびやかすがゆえに脅威であるとするならば、個を特定するものであるはずのゴーストの大量複製、すなわちゴーストダビングは、唯一絶対の個の所在を複数に拡散させることで、個を個ざらしめるがゆえに脅威なのである。
さらに言えば、個からどうにかして抽出したゴーストをロボットに劣化することなく忠実に転写することが可能であるとすれば、もはや人間とロボットの間に積極的な差異を見いだす根拠は消失しかねないという脅威もあるだろう。
しかしゴーストダビングされた情報自体は劣化を免れず、またダビングをとられたオリジナルの個体も生き続けることができずに死を得るという。これはゴーストがゴーストの聖なる不可侵領域を守る上では、実に幸運な事態だったと言わねばなるまい。