「電脳不適応 Net Inadaptability」

通信手段の究極の形態として成立、そして普及を見た電脳ではあったが、新たな技術が、それに伴う下部構造主導型の新種のイデオローグと、予想だにしない社会問題をもたらす現象が垣間見られるのは歴史の常である。

技術的安全面では際立った問題は見られなかったものの、広範な電脳通信インフラの整備は、同時に、コミュニケーション概念の個人差、言うなれば個人と個人との心理的距離の取り方の差異を強制的に均質化することをも意味していた。すなわち電脳によるコミュニケーションが前提化されることは、リテラシーといった概念をはるかに超え、人間の社会動物としてのフォーマットが根本的に変革されることを意味していたのである。

むろん、それに適応できない者が登場したのは言うまでもない。そうしたいわゆる電脳不適応者を社会復帰させるための福祉政策は、いまや各国政府の急務といえた。