作品紹介お伽草子

『お伽草子 原画集』発売記念座談会
『お伽草子 原画集』発売記念座談会

2004年7月から2005年3月まで日本テレビ系で放送し、現在DVDが発売中の「お伽草子」。制作終了から1年近く経ち、原画集の発売に合わせて再び監督とキャラクターデザイン・総作画監督のお二人に、原画を実際に見ながら当時を語っていただいた。

写真右:西久保 瑞穂Profile
Mizuho Nishikubo/監督/1953年1月15日生まれ。TV『赤い光弾ジリオン』、TV『天空戦記シュラト』、OVA『電影少女 VIDEO・GIRL・AI』、プレイステーション用ゲーム『やるドラ』シリーズなどで監督を勤める。映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、映画『イノセンス』など押井守監督作品では演出も手がける(西久保利彦名)。絶賛発売中のビデオクリップ『イノセンスの情景 Animated Clips』の演出も担当している。
写真中央:黄瀬和哉Profile
Kazuchika Kise/キャラクターデザイン、総作画監督/1965年3月6日大阪府生まれ。 アニメアールを経てアイジータツノコに席を置く。TV『BLUE SEED』、映画『機動警察パトレイバー劇場版』、映画『機動警察パトレイバー2 the Movie』、映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、映画『人狼 JIN-ROH』、映画『BLOOD THE LAST VAMPIRE』、映画『サクラ大戦 活動写真』、映画『イノセンス』など、数々の作品で原画および作画監督を担当している。
写真左:中武哲也Profile
Tetsuya Nakatake/ラインプロデューサー/1979年11月16日生まれ。 茨城県出身。プロダクション I.GではPS2ゲームソフト『サーヴィランス 監視者』の制作進行が最初の仕事。PS2ゲームソフト『テイルズ オブ デスティニー 2』での制作担当、TV『お伽草子』のラインプロデューサーを務めた。最近作では映画『ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』のプロデューサーとして作品の制作を一手に引き受ける。
第一回
第二回
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    『お伽草子 原画集』発売記念座談会 前半

    中武:今回は『お伽草子 原画集』の発売記念ということで、監督の西久保瑞穂さんと、キャラクターデザイン・総作画監督の黄瀬和哉さん、そして広報の山川さんを迎えてお話をうかがいたいと思います。司会はワタクシ、中武が務めさせていただきます。まずは『お伽草子』の作業をされていた頃の思い出をお聞きしたいんですが。

    黄瀬:まぁ、韓国にやたらかぶれていた時期っていうことですよね。『ヴァン・ヘルシング アニメーテッド』の作業で向こうに出向して仕事三昧だったから、帰国してからそのまんまのペースでこっちの仕事に入ってしまって、途中で倒れちゃったんですよ(汗)。 キャラクターデザインもやってるんだけど制作部長の三本からは、しょっちゅう「もっとみんながやる気になるようなキャラ表を描け!」って言われてましたね。そうしたら、みんなキャラ表は欲しがるんだけど、実際に仕事はしたがらない(笑)。

    西久保:すごい的を射ているなぁ。

    黄瀬:自分としては、刀が描けるっていうお題目があったんだけど、平安編はともかく東京編に入ると刀が出てこないでしょ。だから東京編では、設定もほとんど新たには描いてないんだよ。途中からやる気がなくなっちゃったんだよね(笑)。

    中武:それでは黄瀬さんから、総作画監督としての仕事の感想は?

    黄瀬:作業の終わった仕事は見返したくない。

    西久保:黄瀬もよく一緒に劇場作品の仕事とかやっているけど、やっぱり初号見た後はほとんど作品を見返したりしないよね。俺も初号を見た後は1回も見ていない。

    山川:西久保さんは監督チェックで何度も見ているからもういいやってなってるのでは?

    西久保:そんなこともないけどね。1回見て確認したら仕事としては、もう終わり(笑)。それはともかく、黄瀬がこんなに頑張っているのはめったに見られない姿だったんでね。『お伽草子』の前半の時は特にね。

    黄瀬:この業界に入ってから3年は頑張ってたんだけどな、スケジュールも(笑)。

    西久保:俺もめったに見ないペースで仕事をしているんでびっくりしてたんだよ。しかもね、最初は総作画監督の作業は6話分ぐらいで終わるだろうと思っててね。その後は何とか各話作監で5本に1本くらい作監やってもらえればいいやって。

    黄瀬:しゃあないやん。やっちゃったもんは。

    西久保:いやあ、すごかったね。それが一番の感想だね。俺の予想が見事に外れたっていう。あと、原画さんはやっぱり『お伽草子』のキャラは、描きにくいとは言ってたよね。何か理由っていうのがあるのかな?

    黄瀬:すごく独特なんですよね。絵作りとかディテールとか。アニメーターが普段描くようなこだわりで描かない部分があって…簡単に言うと「無駄な線」が多いんですよ。わかりにくい無駄な線が多い。人物の身体を解剖学的に考えると、ここに厚みがあってこの線になって、ここは出てくるっていう表現の部分がある。でもそれは、アニメーションとして動かす上では邪魔な線でしかない。

    中武:逆にそこがキャラクターの味だっていうようなところなんでしょうかね?

    黄瀬:原画にそうやってもらった以上はそれを生かしていかなければいけない。

    西久保:田島(昭宇)さんからは、「黄瀬さんがやるんだったらキャラをもっとアニメ風に変えてもらってもいい」って許可を取ってたんだけどね。そういうふうに黄瀬にも伝えたはずなんだけど。黄瀬が田島さんの絵を気に入ってるって言ったところから嫌な予感がしてたんだけどさ。

    黄瀬:そうだな。

    西久保:アニメーション用のデザインとして、線が減るっていう感じではなかったよね。今、改めて見たらね、よくこんなことやってたよなって感じだよね。

    中武:この原画集のサンプルをアニメーターに見せると、けっこう「買いたい」っていう人が多いんですよね。第一幕もそうなんですけど、第九幕も黄瀬さんには、たくさん修正を入れていただいているんですよね。

    黄瀬:第九幕のレイアウトは人物のアップが多かったんだよね。俺、昔からアップは嫌いなんだよ(笑)。

    中武:それでは、実際に原画集に収録された絵を見ながらお話を伺っていきましょうか。

    西久保:……何だか「原画集」というより「作監集」って感じですね。

    中武:作監集はコーナーとして、まとめて掲載されています。あと、オープニング映像の原画はほとんどすべて収録されていますね。

    西久保:あらためて見ると、思った以上にちゃんとしてるね。

    (一同爆笑)

    黄瀬:これでも収録されたカットは全体から抜粋してあるんだよね?

    中武:いやぁ、相当な量でした。ちょっと選びすぎてかなり抜きました。それでもこれだけの量がありますからね。

    西久保:よくやってるなぁ、と思って。まぁ、俺がやったんじゃないからね。

    中武:黄瀬さんが煙だけ修正を入れているカットもあるんですよね。

    山川:キャラクターは?

    黄瀬:キャラはロングだからいいやって。途中からバストショットとか入れなくなったもんね。それよりもこのカットを動かしたいな、とか。

    中武:それで、あの第十四幕の猫。

    黄瀬:あぁ。3カットくらいあったっけ?

    山川:机の上に猫がいる……。

    中武:猫がらみのカット。

    黄瀬:最初にレイアウトチェック時にアタリ全部のっけるって言ってて、参考で一応描いたんだけどね。もともとは猫のカットの作監作業お願いできますかっていう話だったんだけど。「じゃあ」って担当して持ってたら、そのままタイムオーバーになって原画も描くことになった(笑)。

    中武:さて、まずは大平さん(晋也)ゾーンですね。

    西久保:あぁ、大平さんか。

    中武:今回ちょっと大平さんの担当カットも多めに入れさせていただきました。

    黄瀬:大平さんには結構やっていただけたなぁって。本人に話を聞いてみたら時代物が好きだそうで。

    中武:最後の方に大平さんが別作品に移られたときに『お伽草子』もう少しやってみたかったなぁなんて言っていただいたりして。

    黄瀬:もう、東京編になっちゃってたもんね。

    中武:そうですね。

    黄瀬:マニアにとってはたまらないのかな……。

    西久保:そういうアニメーターになっちゃった。まぁ、それにあこがれる人も多いんだろうけどね。

    黄瀬:昔は全然もっと違う絵を描いてたのにね。

    中武:『お伽草子』では第六幕の津波のシーン、第十二幕では龍が出てくるシーンを描いていただいているんですけど。

    西久保:演出のボブ(山本秀世さん)がびっくりしていたよね。自分が描いたコンテで凄い原画があがってきた。こんなんになっちゃったんだよって。予想外のことでビックリしていたね。でも、そういうことがあると仕事やってて楽しかったりするじゃないですか。最近はそういうことにもなかなかめぐり合わなくなってきてるからね。まず、意外性っていうのが少ない。絵コンテと違う絵だったとしても、絵コンテよりもすごくいいということであれば、その方がいいんだけどね。それがちょっとさびしいかなって。

    黄瀬:絵コンテからイメージを膨らませて描くっていうのが必要なんだよね。

    西久保:まぁ、最近はね。しょうがないからOKって思う。どうしたって上手い人のをコピーして描いた方がいいからね。

    中武:これは第二十一幕の原画ですね。

    黄瀬:このころはとにかく時間がなくて、皆しんどかった時期。

    西久保:後半はスケジュールが厳しかったから。

    黄瀬:道ですれ違うたびに作画監督の佐々木(守)さんから「あれでいーんすか!?」とか言われたからね。「いーんすか?」って言われてもね。途中から全部自分が原画描いてるからね。

    中武:そうですね。かなり描いていただきましたね。

    黄瀬:あれ? 中武って…これって中武が原画やったの?

    中武:あの、アニメ業界にもう一人、中武さんがいらっしゃいまして(笑)。

    西久保:ああ、そうなんだ。なんか独特な線を描くなぁ。

    中武:なんか中武さんにご連絡する時には僕は何だか緊張してしまってですね。親戚ではないんですけどね(笑)。

    黄瀬:これは…ああ、猫を描いていると平和になれるんだよね。

    中武:トラクマ大活躍の第二十五幕ですね。

    山川:録音スタジオで若林さんとキャストのみなさんが「猫がかわいい!」って大騒ぎでしたよ。

    西久保:猫の登場するカットは作監がちゃんと入ってるんだよね(笑)。

    黄瀬:一応は、姉ちゃんのアップにも入れてたんだけどなぁ。

    中武:あぁ、卜部(うらべ)ですね。

    黄瀬:卜部といえば、肩幅が広くて描きにくかったみたいですね。みんな細くなっちゃうんで、ガタイがよくなるように全部描き直してたんですよね。

    西久保:薄いけど幅があるっていうのかな。

    黄瀬:骨太な姉ちゃん。「二の腕が太くて」っていう表現が、なかなかわからないみたいで。でも、さっきの人、中武さんはうまかったですね。

    西久保:若い人なの?

    中武:けっこう若い方ですね。あ、これは有名な「黄瀬」という人の原画で…。

    (一同爆笑)

    >『お伽草子 原画集』発売記念座談会

    西久保:猫か!

    黄瀬:このカットでは、猫のお尻振って遊んじゃったんだよね。久々に原画を描いて楽しかったね。修正作業ばっかりだと、ちょっとね。

    西久保:あぁ、総作監だとね、いっぱいあるんだよね。

    黄瀬:これは第十四幕かな。東京編になってすぐぐらいのところだね。こっちは第二十一幕。佐々木さんも面白い絵を描いているね。

    山川:ヒカルのつくったご飯食べてトラクマが飛び上がってる……。

    黄瀬:そうそうそう。もとの原画が面白いと修正作業も楽しんでできるよね。

    中武:次はこのカットを。

    黄瀬:大久保(徹)くんは頑張ってくれたよね。 中武 :第十二幕では原画を担当していただいたりしたんですけども。

    西久保:原画もやったんだ。でも作監作業は大変そうだった。耐えて耐えて(笑)。

    黄瀬:「こんなに大変なんですか作監の仕事って?」て言ってましたもんね。

    西久保:でもさ、この作品をやった後なら、今は楽になったんじゃない?(笑)

    中武:ああ。『お伽草子』は大変だったって聞きますね。

    西久保:I.G作品で作監を経験するやつはみんなそう言うね。 黄瀬 :まぁ、そうですね。自分が厳しい環境にいたから、これくらいの原画を上げなきゃって思ってたら、社外の人間はそうは思ってなかったっていう。

    西久保:その会社の雰囲気とかにもよるんじゃないの、やっぱり。

    黄瀬:スケジュール優先で数撒いてやろうとかってするとね。

    西久保:本当はね、いくつかリテイク戻せばいいんだろうけど、結局描けない人には、リテイク出しても時間の無駄なんだよね。昔はまじめに3回くらいは戻したんだけどねぇ。

    中武:…………。

    西久保:結局は「黄瀬よろしく!」ってなっちゃうんだよね。

    黄瀬:最初に描いてきたものを見てラフで描いてるのかまじめに描いてこうなってきてるのか、わかっちゃうから。この人は1回返したらちゃんと直ってくるかどうかはわかるよね。

    西久保:まあね。手抜きでやってても、やらせればちゃんとやる人いるけど。

    黄瀬:間に合わせでやってきたんだなって分かれば、1回返せばもうちょっとちゃんとあがってくるんだよね。

    中武:あとは印象に残ったことはないですか?

    黄瀬:作監をやってもらった、P.A. WORKS 千葉さんの絵(第二十幕)が好きだったなぁ。くちびるが妙に厚くなってきたっていう。

    中武:はい。とても良かったです。

    西久保:ああ、そうだね。特に女の子の方がそうなってたよね。変に色っぽいって感じっていうか。

    黄瀬:それが、なんかクセがあって面白かったよね。原画の方も面白いんだよね。後半の方かな、自分で原画もやってるんだよね。

    中武:ところで、この原画集をティー・オー エンタテインメントさんのWebページで予約購入すると、特典ピンナップがもらえるということで。このピンナップは黄瀬さんの描きおろしなんですよね?

    黄瀬:たしか、『劇場版 xxxHOLiC 真夏ノ夜ノ夢』のキャラクターデザインをやりながらの作業だったですかね。絵の中に微妙に線がずれてるんじゃないかっていうところがあるんですよね。手元にモノサシがなかったから、フリーハンドで線を引いちゃったりして(笑)。

    中武:まぁ、それも味のひとつということですよね(笑)。イラストを描くにあたって何か特に黄瀬さんの方から希望はあったんですか?

    黄瀬:東京編のイラストにしたってことくらいかな。平安編だと服とかもごちゃごちゃになっちゃう。東京編の方がキャラクターの魅力を拾いやすかったっていうのがあったんですよ。見てる人間にとっては、平安編よりも東京編の方がわかりやすいと思ったんですよね。

    中武:このイラストをスタジオに貼っておくとみんな近づいてくるんですよ。「田島さん? これ、田島さんの絵?」って。そしたら下の方にK.KISEって書いてある。

    (一同笑)

    黄瀬:ああ、手塗りのイラストだからか。なるほどね。セリフとかないからな。

    中武:おっ、田島さんの絵? とかってですね。近づいてきて、あーなんだ黄瀬さんかぁって(笑)。

    中武:さて、そろそろまとめに入りましょう。お二人に総括のお言葉を。『お伽草子』で、もうちょっとやってみたかった試みとかやり残したことっていうのを聞かせてください。

    黄瀬:ないよ。

    中武:はっきりした日本人だなぁ(笑)。

    黄瀬:ま、やり残したことっていうか、本当は自分でもう少しちゃんと仕事をやりたかった。逆に言えば、自分の担当する話数を持てなかったっていうこと。総作監はもう二度とやりたくない。でも、またそれに近い仕事をやらなければならないんだけどね(笑)。 中武 :総作監ではなくて、ある話数の作画監督をやりたかったということですか?

    黄瀬:うん。各話作監できっちりやりたかったですね。

    西久保:本当はね、黄瀬に各話作監やってもらいたかった。ちゃんとレイアウトから全部ね。でも、黄瀬が総作監してくれなかったら、シリーズ通して見た時のキャラクターの統一がね…厳しい状況にはなっていたと思うけどね。

    黄瀬:あっはっはっはっはは。総作監作業は最初の5~6話分やればいいかなって思ってたんだけどね。実際にやってみた結果、この方法しかなかったからね。

    中武:いやあ、やっぱり。アニメーターさんからもキャラクターが難しいっていう意見が出てましたからね。そんな中でも「キャラクターデザインが黄瀬さんだから」って、飛び込んできてくれた人がいまして、すごく嬉しかったですね。それが、千葉さん、そして佐々木さんです。

    黄瀬:おおーっ!? いやあ、時代劇だったら良かったんだけどね。気の毒。 中武 :……気の毒とか言わないで下さいよ。

    黄瀬:いや、本人と会った時に言われたからさ。「時代劇描けると思ってきたら、現代(東京編)なんですよお」ってね。

    中武:ぐっ……。

    西久保:だから、最初に言ったんだよね。「もっと早く来てくれよ、時代劇って言うだけで、誰もやりたがらなかったんだから」ってね。 中武 :あっはっはははは……はは(汗)。

    西久保:そう。まず、服とか描くのが大変っていうのが、あったからね。「もっと早く来てくれよっ!」って、俺が言いたかったよ(笑)。

    山川:黄瀬さん、本当のチャンバラやりたいって言ってましたよね?

    黄瀬:いまだに言ってるんだよ。ものすごーく地味なチャンバラね。ジャンプもしない。そういうチャンバラを一度やってみたいんだけどね。

    西久保:市川昆の『股旅』みたいな? 黄瀬が自分で監督したいって言えばいいんじゃないの? 1本くらい作らせてくれるんじゃない?

    黄瀬:そうすると考えすぎちゃって、ロクなことにならないんだよな。 山川 :気合入れすぎるとダメなんですよ。

    黄瀬:いい加減でやればいいんじゃないの?

    (一同笑)

    黄瀬:「良い」加減で。

    (一同爆笑)

    中武:うまいですね。

    黄瀬:いい加減でやるといいんだけど、入れ込み過ぎると全然ダメになっちゃうんだよね。

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    『お伽草子 原画集』発売記念座談会 後半

    『お伽草子 原画集』発売記念座談会

    中武:黄瀬さんチャンバラ好きなんですか。

    黄瀬:時代物好きだよ。

    中武:時代劇が好き。

    黄瀬:時代劇とはちょっと違う。 中武 : うーん、なるほど。

    黄瀬:時代劇だと本当のチャンバラだけになっちゃうんだけど、時代物だともうちょっと日々の生活や風土に突っ込んだような話に。

    中武:じゃあ、武士のお話なんていうのはちょうどいいんですか?

    黄瀬:そっちよりも町人の話とかがしたい。

    中武:ほうほう。いや、黄瀬さんいいじゃないですか。やりたいものが黄瀬さんに似合う。

    西久保:いずれI.Gでも、そういう作品をやったりする機会もあるんじゃないかなぁ?

    中武:可能性としてはなくはないっすよね。

    黄瀬:韓国に行ってた時に、「朝鮮戦争のアニメが作りたい」って言ってたもん。向こうの監督にナムさんていう人がいるんだけど、酒飲みながら「朝鮮戦争を題材にした作品をやりたいんですよね」って言ったら、「え!? 日本人がそんなこと言う?」ってね。この話題はタブーだったのかなぁっていう。「あなたみたいなことを言う人が日本人の中にもいるんだ?」って。監督は現地の人がやって、そこに作画として参加してみたい。

    中武:ふうん。黄瀬さんが描きたいものっていうのは何ですか?

    黄瀬:人間同士のドラマですかね。ハデなことにはもう飽きた。ずっとそればっかりやってたから。そんだけ歳くったってことかな。

    山川:落ち着いてきちゃいましたね(笑)

    黄瀬:見た目がハデなものはもういい。やっぱりつまんない。そういうものにはもう食いつかなくなってきたかな。そういうものは若いスタッフに任せる。

    (一同爆笑)

    中武:西久保さんはやりたい方向性とかはいかがですか?

    西久保:音楽を題材にした作品はやりたい。それから本当はね、戦争入る前とか後、たとえば「二・二六事件」とかをテーマにして真面目にやりたいんだけど、アニメでやるのがいいのかどうか、ちょっと微妙だけどね。アニメーションという形でね、あえてやる理由があるのかどうかがちょっと分からないものだよね。

    黄瀬:変にリアルなものを求めてるんなら、実写でやっちゃった方が早いんじゃないかな? アニメでやる意味って本当にあるのかなって思っちゃうんだよね。

    西久保:あとはお気楽な感じのアニメをね。

    中武:いやいや。『お伽草子』東京編のオープニング映像とか、西久保さんやっぱりすごいって思いましたよ。

    西久保:西尾(鉄也)くんでしょ。

    黄瀬:コンテから原画から西尾だよ。

    中武:ええ。編集作業の上がりが夜中の12時くらいだったんですけど、あまりに出来が良かったんで、西尾さん寝てるかもしれないけど、電話しようと思って「すげーっす、すげーっす!」って言ったら、「何がだ、何がすごいんだよ?」って言われちゃいました。

    黄瀬:あれは評判良かったみたいだよね。

    中武:いや、本当に評判良かったです。

    黄瀬:ほとんど原画は修正してないと思うよ。楽ですわ。レイアウトはちょこっと修正したけど、それを戻したらちゃんと仕上がってくるから、本当に楽ですわ(笑)。

    西久保:みんながみんなそのレベルの人だったらね。そういうレベルの人たちが、いつでも集まれるわけじゃないんだからね。

    黄瀬:まぁ、そういう人が他の人の面倒見ながら仕事していかなきゃいけないんだからね。

    西久保:黄瀬がそんなことを言うとはね(笑)。確かに、黄瀬はちゃんと面倒見てるよね。最初は「こんないいかげんなやつ!」と思ってたんだけどね。

    黄瀬:あのね、原画マンを紹介されて「こいついい仕事するから使って」って言うのは、本人にとってものすごいプレッシャーなんだよね。

    西久保:いやぁ、でもそういう風に言ってくれないとね。ピックアップする方もね。第一幕のレイアウト見てると、塩谷(直義)くんみたいな面白い人も出てきてる。

    『お伽草子 原画集』発売記念座談会

    中武:それでは最後に、この原画集を買って下さる人たちへ向けた一言を。

    黄瀬:何かのためになればいいなと思います。本当は出したくない、個人的には(笑)。やった側から言うと昔のものは見たくないっていうね。見る人の立場になったらどうなるかわからないんですけどね。結局、自分が他の作品の原画集とか欲しいって思うのと同じ気持ちなんですよね。だから、ぜひ買って見てください。そして買ってくださった方、ありがとうございます。

    西久保:みんな思いのほかね、いい原画が上がってきていてビックリ。総作画監督の黄瀬もたくさん仕事してるし(笑)。

    黄瀬:正直なところ、どうなの?

    西久保:いや、なんかこの作監集見てたらね、劇場クラスの作画なんじゃない? って、そう思うよね。

    黄瀬:やってる仕事は基本的には一緒だからね。

    西久保:あとはほら、予算とスケジュールの問題でどこで妥協するかの問題ですからね。それこそ、『イノセンス』の作監集だろうが、『お伽草子』の作監集だろうがあんまり変わってない気もするしね。

    黄瀬:個人的にはテレビシリーズの仕事は久々でしたからね。

    西久保:そういう面ではとてもいいんじゃない。

    (一同爆笑)

    黄瀬:自分としては『お伽草子』という作品で、田島昭宇さんの絵を描けたことがありがたい。それだけで気分が良かったからね。

    中武:はい。うまくまとまったところで、座談会終了とさせていただきます。皆さん、お忙しい中ありがとうございました。

2005年12月5日 プロダクション I.Gにて収録


『お伽草子 原画集』

『お伽草子 原画集』
監修
プロダクション I.G
編集
ティー・オーエンタテインメント
発行
TOブックス
書店発売
ビレッジプレス
定価
3700円(税込)

A4版並製 全178ページ(内4色:16ページ)
収録原画数約2600点
2005年12月26日発売決定!!

商品の詳細については、ティー・オーエンタテインメントHPにて
http://www.toenta.co.jp/books/07.html