IGPX 寺川英和インタビュー IGPX 寺川英和インタビュー

テレビ朝日・朝日放送・名古屋テレビにて好評放送中の超高速格闘レースアニメーション『IGPX』!! 日本のカートゥーン ネットワークでの放送もいよいよ2006年1月からに迫った本作の魅力のひとつが、IGマシン同士の激しい格闘シーンだ。その迫力ある映像を製作する3Dチームのスタッフに『IGPX』の3D映像制作の実際の現場を過程を追って詳しく説明してもらうぞ!

座談会参加スタッフ PROFILE

ヨシダ ミキProfile

Miki Yoshida
3DCGI担当
『IGPX』の3Dチームをまとめる、頼れるアニキ。代表作は劇場『BLOOD THE LAST VAMPIRE』、OVA『怪童丸』、TV『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』ほか

■テクスチャー作業について

迫力の3D映像ができるまで!! [2]

——テクスチャー作業というのはどういった作業なのでしょうか?

ヨシダ:モデリング作業でつくったマシンの色づけであったり、モノの質感などを決め込む作業です。色に関しては色指定担当から指示をもらいます。昼間・夜間・メカニックルーム内など、シークエンス別に作ってもらった色設定をもとに、色のテクスチャーをつくっていきます。
 チーム・サトミのマシンであれば、黄色・青色を基調に、1台につき6色くらい使用しています。ただ色を乗せただけでは、ベタっとした塗り方になってしまうので、リアルな素材感を出すためにセル画における特効(素材感を出すためにエアブラシを用いて加える特殊効果のこと)のような処理が出来ないだろうか?という3D監督の竹内さんからの要望もあり、データ上での特効処理にもチャレンジしてみました。
 竹内さんからのイメージは、セル画のようなベタ塗りではなくリアルな3Dの質感でもない、ちょうど中間的な処理を狙ったもので、まったく新しい試みだったのですが、テクスチャーデータ上でそれを表現できるようにしました。
 特効の村上さんからは特別に指導を受けました。「マシンの影の部分のリフレクションは抑えたほうがいい」など、具体的なアドバイスをもらうことができました。影の部分にまでリフレクション処理が入っていると、ギラギラした銅板のような質感になってしまうのだとか、通常の3D作業では気づかないような2Dの特殊効果について教えてもらったりして非常に刺激になりましたね。

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 たとえばチーム・サトミのマシンは、黄色と青色のカラーリングが主体になっていますが、黄色いパーツの部分には青い光が映りこむようにすると、リアルな感じが出るんです。近くにある色が、主体になる色に映りこむようにするというテクニックです。
 昼間のシーンであれば空の色、メカニックルームであれば、室内の照明の色をテクスチャーとして貼り込んでいくという作業をおこなっています。そうやって出来たデータに対して、村上さんのほうから「うん。上手くいってるんじゃない?」とか意見をもらえると嬉しいですね。

——テクスチャーデータというのはどういったものですか?

ヨシダ:ベースとなる色に関しては非常に小さな正方形をした画像データです。先ほど説明したリフレクションなどのデータはもう少し大きめの正方形のデータとして、主にPhotoshopなどで描画したものを配置します。モデリング作業で作られたオブジェクトの形とはまったく関係なく、小さなタイル状のデータを敷き詰めていくと思ってもらえればよいと思います。
 特殊なものとしては「ステンシル」があります。『IGPX』では、監督の意向もあってIGマシンはF1のイメージで、マシンにスポンサーロゴが貼ってあるんですが、そういったテクスチャーデータをステンシルと呼びます。これは、先ほどのタイリングデータとは違って、ロゴやマークの形をした画像データを貼りつけていくことになります。プラモデルにデカールを貼っていくようなイメージですね。これによって、データの情報量が増え、かなり見栄えのいいものに仕上がったと思います。
 このステンシルは、演出助手担当の浅野真樹子さんにそれぞれのマシンごとにデータを作ってもらい、デザイナーからもらったステンシルの位置が指定されたマシン三面図をもとに貼りこんでいきました。その数は、やっぱりチーム・サトミのマシンが一番多くて、50点くらいのステンシルが貼られています。
 モデリングデータのオブジェクト上にベースとなる色のタイリングデータを敷きつめて、その上にステンシルデータ、一番上にリフレクションのデータというような順番で貼り重ねてあるんですよ。

——テクスチャー素材のストックについて教えてください。

ヨシダ:ステンシルについては、スポンサーのステッカーなど、各チームに共通になっていますので、最初につくってしまえばそれで終わりです。マシンカラーも基本的にはチーム内で共通ですから同じタイリングデータを使います。
 同じテクスチャーデータでも、空や建物などの背景部分に関しては美術さんに発注して描いてもらいます。3Dでモデルを作成して、その原図を線画で出力して、3D監督の竹内さんに詳細な指定を入れてもらって、それを背景として発注します。完成した背景をテクスチャーデータとして貼り付けることになります。レースが行われるサーキットのメインスタンドなどは、非常に細かなパーツ分けがされているので、それだけでも80枚~100枚くらいの背景素材がデータとして貼りこまれています。

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 ものによっては、背景を担当してくれたスタジオ美峰さんがデータ貼り込みをしてくれています。そういった場合は、こちらから背景データの塗りわけのみ指定をしたモデリングデータをお渡しして、対応する部分に貼り込んでもらうという手順になります。
 また、特殊なものとしてはカメラマップがあります。これは、オブジェクトにテクスチャーを「貼る」のではなく、「投影する」ような処理になります。2Dで描かれた一枚絵の背景をある程度、立体的に動かすことができるもので、第2話の最初のほうのカットで、サーキット上空を「ビッグ・アイ」がゆっくり飛んでいるシーンがそうです。

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——テクスチャー作業上で気をつけていることは?

ヨシダ:テクスチャーを貼り込むオブジェクトの面法線(面に対しての垂直線)にあわせて貼りこむようにしています。また、オブジェクトが作業用のローモデルからフィニッシュ用のハイモデルに変わった時に、面が増えるとテクスチャーの表示がズレてしまうことがあるので、そういった場合はある程度、ローモデルの面を増やしてからテクスチャーを作りこむようにします。
 また、多数のテクスチャーデータを何層にも貼りこむ工程上、問題が起こることもあります。ステンシルの周囲にあるマシンカラーが表示されないとか、リフレクションの効果が抜けてしまうという不具合を修正することもあります。
 そういった細かな作業をたくさん繰り返していくんですが、苦しかった分、完成したデータは見栄えのするものになるので、やりがいはありますね。特にチーム・スレッジママのマシンに貼りこんだファイアーパターンは印象的だったので、改めて画面で見てもらえると嬉しいですね。

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