IGPX 寺川英和インタビュー IGPX 寺川英和インタビュー

テレビ朝日・朝日放送・名古屋テレビにて好評放送中の超高速格闘レースアニメーション『IGPX』!! 日本のカートゥーン ネットワークでの放送もいよいよ2006年1月からに迫った本作の魅力のひとつが、IGマシン同士の激しい格闘シーンだ。その迫力ある映像を製作する3Dチームのスタッフに『IGPX』の3D映像制作の実際の現場を過程を追って詳しく説明してもらうぞ!

座談会参加スタッフ PROFILE

ヨシダ ミキProfile

Miki Yoshida
3DCGI担当
『IGPX』の3Dチームをまとめる、頼れるアニキ。代表作は劇場『BLOOD THE LAST VAMPIRE』、OVA『怪童丸』、TV『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』ほか

コンポジット作業について

迫力の3D映像ができるまで!! [6]

——コンポジット作業とはどんな作業になるのでしょうか?

ヨシダ:これまでにお話してきた作業がすべて終了して、それらのすべてを集約してひとつの素材にしていくという作業になります。簡単に言ってしまえば、これまでの素材を一気に合成してしまう作業です。コンポジットに関しても今までの一連の作業と同じで、カットごとの担当者がこの作業までを受け持ちます。そして、そのできあがった時点で内部のチェックに回っていくという感じで進めています。

 コンポジット作業においても各担当者の癖のようなものが現われてくるんですよ。こうすればもっと見栄えが良くなるんじゃないかという部分もやってあったり、やっていなかったり、好みによって違ってきているところなのかもしれませんが。特に癖として現われるのは視覚的な効果ですね。例えばブラーと呼ばれるブレや横流しの残像だとかマシンの火花が出た時の露出のアンダー、オーバーの調整の仕方だったり、ピンスポットの大きさだったりとか、その辺でけっこう個人差が出てくると思います。画面の縦揺れ横揺れだったりの入れ方でも差は出てきますね、細かくてなかなか識別するのは難しいところではありますが。

 素材の合成に加えて、アフターエフェクトで2D撮影できるエフェクト、つまりハイコンの処理とかブラーの調整なんかもこの段階で組んでいくことになります。合成する作業と言いつつも、ここでもエフェクト作業をする感覚ですね。大きいところでは画面上に「空気感」を入れているんです。例えばビルとか奥にあるロングコースとかの背景部分に淡く青緑に飛んだような効果を入れて立体感を弱めてあげることで、手前にあるものの立体感を際立たせて存在感のある画面になるようにしているんです。画面の手前から奥の方までギチギチに詰まった情報量の多い画面だと、見ている側にもかなりの負担ですし、見せたいものが効果的に見えなくなってしまうんですよね。なので、決まったルールにのっとって「空気感」の効果を均一に入れてあげることで調整しているということになります。
 この辺の処理については、カット内で特殊な撮影をやってくれている亀井(幹太)さんに見てもらったり、どういう方法で撮影をされているかという話を聞かせてもらって、亀井さんのノウハウを伝授してもらって作業しているという感じですね。そうやってほかの人が作業しているのを実際に見せてもらえたことは、かなり勉強になっています。

迫力の3D映像ができるまで!! [6]

——なるほど。前段階の作業素材を集めて、ただ合成すれば終わりというわけにはいかないんですね。

ヨシダ:そうですね。これまで積み上げてきた作業の集大成ですから、気合も入るところではありますね。実は1話とか2話とかを見るとビルが異常に暗かったりするんです。これは、さっき言った「空気感」が入っていないからなんですよ。基本的にビルって光が当たっているところは明るいんですけど、当たっていないところは真っ暗なんです。そこに「空気感」を入れてやると環境光みたいなものが入って、ふわっと一段明るく見えるようになるんですね。そうすると、奥にあるものが情報としては存在しつつも、主張しすぎなくなって画面として調和の取れたものになってくれるんです。
 初期の頃はそういうところが基本ルールとして確立されていなかったので、実は今見るとかなり背景のビルなんかが真っ暗でパッキリとした状態で映っているんです(笑)。機会があったら見比べてもらうと、「こういうことか」と理解してもらえるかと思いますね。

——ハンディカムで撮ったような感じのブレとか、ショックのような効果もコンポジットで足されるんですか?

ヨシダ:全部ここですね。あとは第13話でカニンガムが暴走した時にタケシが高速モードで殴り合っているというシーンもすべてこのコンポジットで色を調整したりと手を加えています。3Dの時は素材として起こして、最終的にはコンポジットで色を変えたり、タイムをずらしたり、ブラーを強くつけたりと、かなり手を加えて仕上げています。いろいろと手を加えていじることができる分、ここでいかにハイグレードなカットに仕上げられるかというコンポジット作業ならではの面白みがありますね。
 モーションをつける時にもきちっと作っていた部分がコンポジットで効果を加えることで実は画面上に出てこなくなってしまう部分があったりもするんです。今まではそういうところまで気づけずにどこも全力投球でやってたんですが、最近はそういうコンポジット時の作業も想定しながら計算してモーションをつけてみたりという緩急がつけられるようになって、より効率的で仕上がりも効果的にできるようになってきたと思いますね。
 フル3Dの作業工程でない場合は、3Dモデルを作ってモーションをつけた段階で、他の人に最後の工程をお願いすることになりますから、最終的にどういう使われ方をされているのかというのは、とても気になることでしたね。今は自分たちのコントロール化における環境なので、その環境下でのノウハウも身についてきて、いい経験が積めていると思います。

迫力の3D映像ができるまで!! [6]