竹内敦志Profile
- たけうち・あつし
1965年4月3日生まれ。 - メカニックデザイナーを志し、アニメーション業界入り。主な作品は、劇場『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995/メカデザイン、レイアウト、原画)、実写『アヴァロン』(2000/メカニックデザイン)、『戦闘妖精雪風』(2002/3D特技監督)、劇場『イノセンス』(2004/メカニックデザイナー)など。
石垣純哉Profile
- いしがき・じゅんや
1967年11月22日生まれ。 - OVA『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』(1997/メカニックデザイン)、TV『機動天使エンジェリックレイヤー』(2001/メカニックデザイン)、OVA『マクロスゼロ』(2002/メカニックデザイン)、OVA『トップをねらえ2!』(2005/メカニックデザイン)、劇場『鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』(2005/クリーチャーデザイン)。「愛・地球博」に出展された新型警備ロボット「ムジロー」「リグリオ」のデザインも手がける。
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<< 第一回 >>
■メカというよりもキャラクターとして成り立ってくれるといいなと思ってデザインしてます。——まずは、今回お二人が『IGPX』に参加されることになった経緯をお聞かせください
石垣:当初、僕は別の作品で本郷監督から小物関連の設定をやってくれないかと声をかけられていたんですが、その作品になかなかゴーサインが出ず、結果『IGPX』を一緒にやろうということになったんです。
竹内:僕も本郷監督に声をかけられて、参加しました。
——お二人が仕事で一緒になるのは、はじめてなんでしょうか?
石垣:『サーヴィランス 監視者』(PS2用ゲームソフト)という作品では渡部(隆)さん、大原(泰志)さんと一緒に僕たち二人もメカニックデザインとして名を連ねたことはあったんですが、その時にはほとんど面識はなかったので、実際にやりとりをしながら作業しているという点では、はじめてになるかと思います。
竹内:僕は本郷監督とは劇場版『サクラ大戦 活動写真』で一緒にやらせていただいたことがあったんです。確かに『サーヴィランス 監視者』では石垣さんとも他の方々とも直接的な関わりはなく、担当の制作の方を通してのやりとりが中心だったので、今回の『IGPX』のように顔をあわせながらの作業とは違いましたね。
——実際の作業としてはお二人の役割分担はどうされているんですか?
石垣:うーん……。特に明確な線引きがあるわけではなくて、分量でいうなら半々、といったところでしょうか。
竹内:本郷監督からは「ひとつのデザインラインに違うラインが混ざることで画面がおもしろくなる」と言われていますから、二人で相談しながら作業を割り振っていますね。
——個性的なIGマシンの数々は、どんなやりとりをされながらデザインされたんでしょうか?
竹内:それぞれのマシンがどういう技を持つかということに関しては、みんなでいろいろとアイデアを出しあいながら話し合ったかと思います。得意技はどういうものにしようか、とか議論していましたね。本郷監督はデザインラインに関して注文してくる方ではないので、ある程度マシンの個性が決まってくると、それに合わせてこちらから提案させてもらうという形です。
石垣:こちらから「こういうものでいかがでしょう」と提案してみて、何か不都合があれば意見をいただくこともありますけど、ほとんどの場合は「分かりました」ですんなりと通ってしまいましたね。僕の場合は基本のデザインができた段階でモデリングの作業に入ってもらって、修正もその時に反映させていきながら最終的な形にフィックスさせていったんですけど、この段階では特に修正が入ることはありませんでした。
竹内:モデリングの監修も含めて、こちらの判断に委ねてもらえた部分が多かったですね。
——みなさんのアイデア出しの場は頻繁に設けられたんでしょうか?
石垣:みんなで八ヶ岳(I.G所有の保養所)に行きましたよね。
竹内:そうそう。合宿で集中的に話し合いしたり、あとは近くのファミレスに集まって話し合ったりもしましたね。基本的には全体のバランスを見ながら、IGマシンの繰り出す技のキャラクター性について話し合っていたと思います。たとえば、チーム・スカイラークは女の子のパイロットだから、あえて過激な技を繰り出すマシンにしてみようとか。チーム・スレッジママはルール違反ギリギリの飛び道具を持っているマシンにしてみようとか。
僕はメカというよりもキャラクターとして成り立ってくれるといいなと思ってデザインしていますね。それと、子供も好きになってくれるようにというところも意識はしています。
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<< 第二回 >>
■自分の思ったとおりのデザインでいこうという割り切りがついたんです。——デザイン作業をする上で楽しかったところはどんなところですか?
石垣:最初は僕も無責任に「手がデカくなる」とかいろいろなアイデアを出してみるんですよ。でも、それが何でもOKが出てしまって、逆に「本当にいいの?」と思うこともけっこうありました(笑)。あとは、今回3Dという部分で、デザイン画がモーション・ギガの影響を受けている部分があって、それは嬉しいというか楽しいと思いましたね。
たとえば、ゲームの仕事を何本かやっていて、いろいろと新しいことをトライアルしてみるんですが、ゲームの性質上その動きを見せるためにはモーションの担当者があと何人いないとできないとかっていうことが多くて、せっかくの試みが既存の人間に合わせた動きに置き換えられてしまって、「しょうがないか……」となってしまうんです。今回はマシンがメインでもある企画なので、アイデアが反映されて、このフレーム構造だからこう動けるというのが具体的に見られるのが嬉しいですね。
実際に、見て驚いたのはブラックエッグのマシンが防御の姿勢でスピードモードっぽく低い姿勢をとった状態から、すぐに立ち上がったりする動きを見た時ですね。IGマシンには変形のために変形するパーツがないので、走行しながらマシンが低い姿勢から高い姿勢への変形やその逆の変形をスムーズに行っているんですよ。こういう変形の仕方は、今回の作品ならではの変形ギミックだと思います。
竹内:僕は部分的ですが絵コンテもやらせてもらっているので、マシンをこういう見せ方にしたいんだと常々思っていたことを、いくつか実現させてもらいました。あまりにも自由にやらせてもらえるので、「本当にいいのかな?」という一抹の不安は覚えましたけどね(笑)。
石垣:その自由度の高さゆえにモデリングの時には悩んでしまうことはありましたね。やっぱりストッパー役の人間がいないと歯止めが効かないわけじゃないですか。こっちの言うことに何でも応えてもらえてしまうと、「それはできません」とひとこと言われればあきらめがつくものでも、際限がなくなっちゃうんです。
竹内:3Dチームは本当に頼もしいですね。「できない」って言わなくなってきました。「わかりました。やります。そうしましょう」って……。そして、ちゃんとそのとおりか、それ以上の出来ばえで仕上がってくるんですよ。だから、自分で決断していかないといけない。色に関しても、ステンシルに関しても。でも、こちらもよくわからない部分があったりするんで相談しに行くと、「やりたいようにやってください」って言われちゃう。嬉しいけれど責任も重い環境ですね。
石垣:何かにつけて「どうですか?」と中間チェックをさせてくれるので、結果としていろいろな部分で関わりを持たせてもらっています。3Dチームから気を遣ってもらっている感じがしますね。
竹内:僕はメカにもキャラクター性を立たせたいなと思っているんです。メカっていう無機質なものというよりも、作品の中ではひとつのキャラクターとして扱うべきものとして捉えています。なので、乗る人によってもキャラクターが変わったりという、ひとつひとつのマシンとしてのキャラクター性をより出すために少しオーバー気味にデフォルメすることは心がけていますね。
あとは、子供に受けるようにと、少しビビッドな色使いを心がけてはいますね。『IGPX』はモータースポーツなんですけど、参考として見ていたのはサッカーチームのユニフォームとかですね。あの色使いと『IGPX』の作風とがマッチするので、おもしろい色使いができるかなと思ったんです。チーム・スカイラークのマシンはパステル調なんですけど、これは色の持つ雰囲気だけで個性的で、他のチームとの差別化という意味でも成功していると思います。
石垣:このマシン(チーム・スカイラーク)たちは、基本的に頭の飾り以外は同じ作りになっているので、色で区別するしかないんですよね。逆にそれが良かったかなと思いますけどね。
竹内:他のチームにはないオリジナリティが出て良いですよね。花柄のマークは浅野(真樹子)さんのデザインなんですが、スポンサーが化粧品会社という設定と相まってうまくハマっていると思います。
石垣:僕はデザインする上で必要のないデコレーションはしたくないので、できるだけシンプルにまとめたいと思っています。3Dだと意味のないパーツでごちゃごちゃと飾り立てて、ごまかしてしまうような部分があったりすると思うんです。そういうのが僕は嫌なんですね。いろいろな作品のメカを見ていてもそう思うことがけっこうあるので、バラつきのないものが出来上がるという3Dの良さが生かされるデザインを心がけました。
でも、最初に竹内さんのデザインを見た時には、やっぱりこんな風にした方が良かったのかなって自分の中で迷ってしまった時期があったんです。世界観という部分で、ある程度デザインの方向性を合わせていった方がいいのかなと、どうしても思ってしまうんですよね。でも、本郷監督が僕を呼んでくれた意味を考えた時に、自分の思ったとおりのデザインでいこうという割り切りがついたんです。
竹内:それこそ、石垣重工と竹内インダストリアル製の違いですよ(笑)。
石垣:そうですね。同じ画面上に並ぶものだから、相容れないもの同士になってしまったらいけないと自制する部分があったのが、デザイン画上では乖離しているものでも3Dモデルになることによって共通項ができてひとつになれるってことが分かってからは、やりやすかったです。
竹内:でも、最初にアイデアを持ち寄った時には二人とも足の部分はソリというかスケート状になってましたよね、偶然。
石垣:たぶん、普通に考えたら、そこに落ち着くんでしょうね。やっぱり動きが優雅に見えますしね。IGマシンに貼ってあるステンシルも、データをもらって色も自分の好みで変えたりしながら、もともとのコンセプトを崩さないようにデザインの一部として、自分自身で位置を決めていけたんです。
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<< 第三回 >>
■現代と地続きなところにある近未来——実際のモータースポーツで使用されるマシンにもたくさんのステッカーが入っていますよね?
竹内:それもデザインのひとつになると思います。見る人もそういう記号があるとそっちの方に意識が傾いてくれると思うんですよね。そういう何かしらの引っかかりをデザインでも作っておきたいと思うんです。
石垣:チーム・ヴェルシュタインのマシンにステンシルを貼っている作業中に石垣重工のマークがあったんですけど、ラインを崩さないように貼ることに集中していて、最初は何が描いてあるのかあまり意識していなかったんです。ふとした瞬間に文字をじっと見つめていたら「ISHIGAKI」って自分の名前から取った会社名がデカデカと入っていることに気が付いて(笑)、「これはちょっとはずかしい……」と思って赤面してしまったことがありました。
竹内:竹内インダストリアルっていうマークもあるらしいんですよ。丸に縦線のデザインのもので浅野さんの遊び心で入れてくれたらしいんですけどね。どこにあるかは探してみてください。
石垣:本郷監督は昔からスタッフの名前を入れたりとか、もじったりとかしてキャラクターに使うということをされるんですよね(笑)。
——作品の舞台設定となる2048年という近未来をどんなところで表現されていますか?
竹内:アイデア出しのところでブレストをやった時に、自動車の排ガスが出ないようにしようとか、カードキーみたいなものを出そうとか、そういう話は活発に出ていました。
石垣:セグウェイみたいな乗り物が行き交う街にしようとか、言ってましたね。
竹内:あとは、モノレールやトラムで動けることにしよう、とか。IGシティの中に入ってしまうと車は置いてしまって、クリーンな乗り物だけが走っているような感じにしようと話していたんですね。昔、近未来っていうとそんなイメージだったと思うんですけどね。今はもうそういうイメージが逆になってしまって『イノセンス』のように近未来はもっとごちゃごちゃしたゴミだらけの街だったりしますけど、今回は原点回帰といった感じで考えていました。ターゲットとして、子供から大人まで、幅広く楽しめる作品にする意図があるというところも大きいとは思いますね。
石垣:やっぱりストーリーがシンプルでストレートなものになっていますからね。
竹内:最近ではこういうストレートな作品が珍しくなった分、逆に新鮮に思えるアニメーションかもしれないですね。僕はリニアモーターというのを意識していたんですね。このリニアモーターという技術が日本独自のものだと、先日渡米した時に知ったんです。アメリカ人にリニアモーターについて聞いても知らないんですよ。長い間開発しているわりに実用化されていないからですかね。でも、僕は今回のデザインでは、勝手にハイブリッド・システムとかって思ってやっていたんですけど、水素エンジンもこれから実用化されていくだろうし、そういう現代と地続きなところにある近未来なんですよね。
——作業中のエピソードで印象的なものはありますか?
竹内:他でもけっこう話してしまっているんですが、3Dチェック作業の時に3Dスタッフが全員Tシャツの色をそろえてくるんですよ。前回は青、とか今回はオレンジといったように。それはチェックが通る確率が高かった色に統一してゲン担ぎということらしいんですが、どんどん着られる色が減っていっているらしいです(笑)。
最初はみんな同じ色のTシャツを着て、何のことだろうと不思議に思っていたんですけどね。あとは、サトミとかのチームロゴのフォントが半角空いているところがダサいとCartoon Network側から言われて直したことがあったんです。これは日本人とアメリカ人の感覚の違いなんでしょうね。よくアメリカ人が変な漢字のプリントされたTシャツを着たりしているのと似たことを日本人もやってしまっているんだろうなと思いましたね。
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<< 第四回 >>
■いろいろと発見してもらえたら嬉しいですね。——このインタビューが収録されている時点、アメリカではまだ放映前になるので、実際に放映が始まってどんな反応が返ってくるのか楽しみですね。
竹内:Cartoon Networkプロデューサーの反応を見ている限りでは大丈夫そうなんですけどね。
石垣:自分自身の中では「よし!」と思っていても、それが本当に自分の中だけってこともけっこうあるので、反響はぜひ知りたいところですね。
竹内:やる気に関わってきますしね。僕らのような職業は反響を食事にして生きているところもありますから。
——1話を最初に見た時の感想は?
竹内:もっと3Dシーンを見たかったな(笑)。
石垣:ここまで普通にメカが動いているのがすごいなぁ、と思いました。ちょっと特殊な骨格構造をしているのに、ぎくしゃくしたりせずに普通に動いていることに驚きましたね。耳で聞いている情報で作品をイメージしていた部分が1話を実際に見てみると、いい意味で裏切ってくれたんじゃないかと思いますね。
竹内:3Dチームで中心になってくれているヨシダ(ミキ)くんはモーションづけがどんどん上手くなっていっていて、みんなをどんどん引っ張っていってくれていますね。それぞれのマシンに演技をつけていくと、それだけ動かす方も神経を使いますから、大変な作業になると思うんですけどね。見事にこなしていってくれていると思います。みんなが楽しんでやりながら、スキルが向上していっているんじゃないでしょうか。
——今後、新しくデザインをされているものは出てきますか?
石垣:今のところもう1チームのIGマシンを作業しました。それは竹内、石垣、3Dチームの合作というべきデザインになっています。
竹内:僕がデザインしたチーム・サトミのマシンをもとに、
石垣:僕が違うマシンに見えるような手足のギミックとアイデアを入れて、今度はモデラーが完成させていくっていう……。
竹内:その際にも遊びを入れたギミックが追加されたり、修正が入ったりして完成となるわけです。
——贅沢なコラボレーションですね
石垣:ある意味どのマシンよりもキャラが立った仕上がりになっていますね。
——ご自身が感じるこの仕事に携わることの醍醐味を教えてください
竹内:メカのデザインだけってなると、どうしても表現しきれない部分があるんです。デザインで用意していることが演出家にうまく伝わらなかったりとか、うまく使ってもらえなかったりということで小さなストレスを感じることがあるんです。
今回の本郷監督に関してはいろんなことを「やっていいよ」と言ってもらって、絵コンテを描かせてもらったこともそのひとつなんですが、自分にいろんなことをやらせてもらって、デザインする時に用意したアイデアが思う存分に生かせているということがはじめての経験でものすごく楽しいですね。
石垣:今回は3Dということもあって、自分のデザインしたものにモデラーさんのセンスが加わることによって、さらにより良い形になっていくというか、自分が頭の中でイメージしていたものにより近い形に仕上がっていくというところが一番大きくて、やっていて楽しいですね。自分が目論んでいたとおりか、それ以上のものとなって上がってきますからね。大きな満足感が得られています。
——ともすれば、分担された作業をこなすだけの作品もあるかと思いますが、『IGPX』はスタッフの切磋琢磨によってできあがっている作品なんですね
竹内:後半になっていくとストーリーもどんどん盛り上がっていくので、あまり深く考えないで素直に見て楽しんでほしいですね。
石垣:深夜に放映されているので、録画して見ている方も多いと思いますが、逆に何度も見直してこんなことやっていたんだとか、いろいろと発見してもらえたら嬉しいですね。僕も見ながら、ここは後でゆっくり見直そうとかチェックしています(笑)。