作品紹介シュヴァリエ

第5回後編 脚本家 むとうやすゆきの言葉ありき!「国分寺」

今回も、前回に引き続き『シュヴァリエ』でシリーズ構成を手がけるむとうやすゆきさんにお話を伺います。むとうさんにとっての『シュヴァリエ』へのこだわりはどのようなものなのでしょうか。

chevalier_muto2.jpg
名前
むとうやすゆき
役職
脚本家
経歴
デビュー当時より、敬愛する古橋監督に自作を送付するなどして存在をアピール。『バジリスク~甲賀忍法帖~』での仕事が決め手となり、監督推薦の形で本作に参加。冲方丁の壮大な構想の中に生きる人物たち一人一人にさらなる機微と深い人間性を与える役割を担いつつ、最多本数の脚本を執筆。『銀河鉄道物語』では人気エピソード『闇の慟哭』のノベライズも手がけている。

——『シュヴァリエ』の脚本ならではの、他作品との違いはありますか?

 当然ながら、登場人物が発する言葉には細心の注意を払っています。小説家である冲方さんはもとより、古橋監督がたいへんダイアログを重視してくださる方で、言葉に対する感覚や考え方もそれぞれ互いに近く、早い段階で基本的な意思統一が図れていたように思います。芝居的な部分も含めて、記号的表現や雰囲気だけの描写、言い換えれば、あらゆる無駄の排除を効率よくかなり突きつめてやることもできました。それをみんなで緊張感をもって2クール通した結果、作劇におけるひとつの極意、というと大げさですが、シンプルだけれど忘れがちなある大切なことに気づけたりもして、それは一制作者として今回得た糧の大きなひとつとなりました。

——「実質オリジナル」ということで、いわゆる「原作モノ」との違いは?

 古橋監督がシナリオ表現をたいへん尊重したディレクションをしてくださる方であるということから、画や動きのかなり細かな部分にいたるまでを会議の席でつめたうえで、脚本段階から指定させていただいています。それに加え、作品世界の特性上、ト書きにもセリフにも文学的表現が多くなっており、脚本の分量は原稿枚数でいうと物語序盤ではペラ(200字詰め原稿用紙)80枚、中盤で90枚、終盤は軒並み100枚以上になっています。単純にページ数で制限を課せられる制作体制の場合には不可能な書式です。無論、脚本上の描写ひとつひとつがフィルムでどこまで再現されるかは、監督と絵コンテを切られる演出家の方に委ねられますし、文章量が多くても映像になった際の尺は同じですので、予算との兼ね合い(動きが増える=作画枚数がかさむ)や全体的な労力のバランスは勿論TVアニメとしてのそれを逸脱しないよう意識しなければなりません。

——むとうさんは毎回アフレコにも参加されているそうですね。

 基本的に立ち会わせて頂く姿勢でやらせていただいています。一字一句シナリオ通りにしてもらうためではなく、言葉を扱う現場で起こるさまざまな問題に、書き手が一人いると対処しやすい場合が多いなど、いくつかの理由と考えから、そうさせてもらっています。

 『シュヴァリエ』に関しては「言葉」そのものがテーマのひとつでもありますし、音響は通常、一度録り終えたらやり直しのきかないものですので。まず責任ありき、それとやはり、心のスクリーンにだけ映っていたものがいよいよ形を成す場に居合わせたい、見届けたい、という思いもあります。

——最後に『シュヴァリエ』を観てくださっている皆さんへメッセージをお願いします。

 冲方さんとアニメーションスタッフとの化学反応によって、小説・コミックとは違う独自の騎士道と絆の物語を描くことができたのではないかと思っています。演じる役者さんたちもそれをがっちり受け取め、ともに魂を込めてくださっています。その結晶たる、国分寺発のアニメ版『シュヴァリエ』を、ぜひ楽しんでいただけたら幸いです。