作品紹介シュヴァリエ

第18回 デジタルエフェクト・アニメーター 鈴木雅也の言葉ありき! 「メタモルフォーゼ」

名前
鈴木雅也(すずき・まさや)
経歴
ゲーム、アニメなど数多くの映像作品で、デジタルエフェクトを担当するクリエイター。株式会社GONZO所属
これまで手がけた作品に、ゲーム『FINAL FANTASY 8』(エフェクト/ムービーコンテ)、『XENOGEARS』(エフェクト/ムービーコンテ/他)、『テイルズ オブ ジ アビス』(デジタル処理)、アニメ『るろうに剣心』(OP/ED/デジタル処理)、『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(ビジュアルエフェクト)、『ハウルの動く城』(デジタル処理)、『巌窟王』(エフェクト)、『赤く爆す天の月PV』(白亜右月 共同監督)、『シュヴァリエ』など。
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——『シュヴァリエ』の企画に関わることになった時のエピソードを教えてください

監督の古橋さんとは古くからのつきあいで、ある日突然、連絡をいただいて「2Dの作画でも3Dでも表現が難しそうなカットがあって手伝ってほしい」ということで、参加することになりました。企画の段階からお声がけいただいていたので、この作品の舞台である18世紀当時の資料をたまたま自分が所有していて、それをお貸ししたりということもありましたね。そんな小さな偶然も『シュヴァリエ』に興味を持った理由かもしれません。

——鈴木さんの担当された「デジタルエフェクト」作業について教えてください

『シュヴァリエ』ではまず最初に、ヴェルサイユ宮殿の庭園にある噴水を自然で印象的に見えるよう、2Dの作画にデジタルエフェクトを施すという作業をしました。パーティクルなどの光の表現だけでは足りない部分を手作業で描き起こしていく、いわば「手ヂカラ」を使って、より表現に深みを持たせるようにしています。そうこうしているうちに監督から「オープニングやエンディングでもお願いしたいカットがあるよ!」と言われて、あれよあれよという間に仕事が増えていったんです(笑)。オープニングでは噴水や煙、炎といったものの表現を、そしてエンディングでは画面素材の作成からはじまって、キャラクターデザインの尾崎さんが描かれたイラストに動きをつける作業などもおこなっています。キャラクターの髪が風になびいていたりするモーションがそうです。

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——『シュヴァリエ』でのモーフィング技術の使い方について、詳しく教えてください

一般的に「モーフィング」というと、2つの画像をプログラムで変化させていくという画像処理をおこなっているイメージが強いと思うんですが、自分としては、もっと広い意味で「アニメーション」の表現方法の一つであると考え、物体がひとつに形をとどめず、変化・流動していくメタモルフォーゼ表現としてとらえています。

作品中では川の流れや雲などの自然物の動きの変化や、オープニング映像での噴水の表現のほか、エンディング映像のようなイラストに動きをつけたり文字のつづりがアナグラムで変化するさまを表現するなど、さまざまな使い方が出来る便利なツールとして活用しています。

また、第11話ではボロンゾフの隠れ家だった小劇場の建物が崩壊するシーン、そして19話のデュランの額からロザリオが溶けて流れてゆくシーンなどもモーフィングで表現しているんですよ。

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——鈴木さんが『シュヴァリエ』の作業でチャレンジした新しい試みはありますか?

自分の担当する作業は、表現したいシーンを実現するために、いかに機転を利かせられるかというのが大事で、そのすべてが実験的な側面を持っています。

決まった手順に従って進めていくような作業ではなく、実際にやってみるまでどうなるかわからないものを手がけるという、大変だけどやりがいのある作業だと思っています。ありきたりの表現ではなく、いままで見たこともない映像が表現できると嬉しいですね。

たとえば、11話で建物が崩壊するシーンでは、作画での動きではなくモーフィングで表現しています。絵として描かれていない建物の裏側は表現できないなど制限も多いのですが、スペクタクルシーンとして成立するように試行錯誤しながら仕上げています。

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そして第19話のデュランがガーゴイル化するシーンでは、キャラクターに思い入れがある分いろいろな表現をやってみたくて、これまでとは違って詩篇が身体じゅうを虫のように這い回るような動きをつけてみたりしてます。古橋監督も信頼して任せてくれたので、自分のアドリブとしてチャレンジしてみました。

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——この作品に関わったことで新たな発見や得たものはありますか?

若い世代のスタッフと一緒に仕事をすることが多かったんですが、皆さん、自分の手がけている作品をよく見ているな、考えているな、ということが非常によく伝わってきて刺激になりました。各スタッフが担当する作業はそれぞれ違えども、「面白い作品を作ろう!」という共通の目的を持って仕事をしている。自分が担当したエフェクトについても、ちゃんと気づいて評価してくれるのが嬉しいですね。

そんな雰囲気の中で自分も、エフェクト処理ひとつとっても、作画の方たちが描いた絵の魅力をより際立たせるために作業しているわけですが、なぜその効果を選択したのか、何を表現したかったのかという意図が、見ている人にちゃんと伝わるといいな、と考えながら仕事をするようにしています。

——『シュヴァリエ』のこれまでの作業の中でベストカットを選ぶとしたら、どのシーンですか?

エンディングでしょうか。どんな作品でも、必ずストーリーの最後にはエンディングがあって、それが作品を見てくれた人の心に余韻を与えてくれる重要な役割を持っているんです。『シュヴァリエ』のエンディング映像では、それぞれのキャラクターにあったカラーイメージを考えたり、楽曲にあわせて透過光に強弱をつけたりといったアイデアを盛り込んでみたんですが、それが非常に上手くいったと思います。

そして、アイデア自体は自分のものではないのですが、デュランのシーンで眉毛が<ピクッ!>と動くところがあるんです。それこそ一瞬の動きなので、誰か気づいてくれるかな? と思いながら作業をしましたが、放映後、ちゃんと気づいてくれた人がいて、それが嬉しくて自分でも「ニヤリ」としましたね(笑)。

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——『シュヴァリエ』視聴者へのメッセージをお願いします

映画の言葉を借りるならば、「考えるな、感じるんだ(”Don’t think. Feel!”)」でしょうか。考えながら見てしまうと、史実上、実在する人物の物語なのに違っている点やウソがあるじゃないか、ということになってしまいますが、視聴者に「面白い!」と思って見てもらえるように、多くのスタッフがたくさんのアイデアを持ち寄って形づくってきた作品ですから、悪いものであるはずがない。その面白さを素直に見て、感じてほしいなと思います。