Production I.G

第15回 作画監督　窪田康高の言葉ありき！　「堅実さ」

——『シュヴァリエ』の企画を始めて知ったときのご感想は?

はじめにキャラ表をいただいたんですが、線が多いなあ、と思いました（笑）。実は、それまでキャラクターデザインの尾崎さんのことを知らなかったんです。スタジオのスタッフに「尾崎さんのファン」という人がいて、いろいろ教えてもらいました。

——『シュヴァリエ』のストーリーについての感想は?

最初は「10代の若者向けのオカルトアニメ」的な印象を受けたのですが、古橋監督の考えはそうではなく、スタンダートにドラマを見せてゆくスタイルでしたね。絵の見せ方についても同様で、魔法モノのような見せ方にはなっていない。意図が明確なんです。ただ、ストーリーは非常に複雑で分かりずらい感じがします。敵と味方が戦って単純明快な結末を迎えるというパターンとは違いますよね。

——『シュヴァリエ』の作画についての感想は?

作画の作業感としては『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズに近い、手間をかけて絵を詰めていくという感じでしょうか。自分は『風人物語』を終えた後に、この『シュヴァリエ』の作業に入ったので、作風のギャップにとまどって、キャラクターを把握するのに苦労しました（笑）。

たとえば、デュランというキャラクターは、キャラクター表では、かなりガッシリとした体格をしているんですが、自分のイメージで、もうちょっと線を細くしてミステリアスな部分を強調してみたり、テラゴリーは気持ち首を太く、歳をとっている感じを出したりしています。ロビンは、女性の原画さんが思いいれたっぷりに美形キャラとして描いてくださったので、そのまま使っている感じですね（笑）。そして、なんといってもデオンが難しかったですね。姉・リアの魂を宿して戦うことになるキャラクターということもあって、シーンによって男らしくも、女らしくも描かなくてはいけないので、結果としてどのようにでもとれてしまうイメージになりがちなんです。本当に難しい。逆にマクシミリアンなどは、「後ろ暗い秘密を持った敵」という分かりやすい特徴があるので描きやすかったですね。

自分が作画監督を担当した、第11話でもキャラクターのイメージをつかむのが大変でした。特にエカテリーナは、エリザベータと同年代の姉妹のような関係かと思っていたのですが、実際には年齢の離れた美少女ということで、演技のつけ方や表情などを修正したりしました。それから、仮面とベールで正体を隠しているときは、あからさまに顔が分からないように注意しました。

演出の初見さんが、かなりの分量の作業をこなしてくださって、すごく助かりました。おかげで作画監督の作業としては、非常にスムーズに進められた感じですね。とにかく、自分としては過剰な演技にならないように、やるべきことを堅実にやれるように心がけています。

——実際の史実がベースとなる世界観ですが、気をつけている点はありますか？

さまざまな国が舞台になるので、その時代だけではなく土地柄といったものにも気をつけます。フランスとロシアで、どちらも雨のシーンがあるんですが、その土地での雨の降りかたという点にも注意しています。また、そこに暮らしている人たちの服装についても、歴史の資料を参考にしながら「らしく」見えるように描きます。「現実」をそのまま描写すると思ったよりも「リアリティ」がなかったりすることがあるんですよ。

——この作品に関わったことで新たな発見や得たものはありますか？

キャラクターデザインの尾崎さんがアニメーター出身の方ではないということで、これまで自分が描いたことのない描線をもっているんです。その新しい絵を自分のものにしてやろうと思いながら描いています。そして、自分以外のスタッフの仕事の進め方の違いを見ることが出来るのが面白いですね。特に初見浩一さん（演出・絵コンテ）と一緒に仕事が出来たことは、いろいろな刺激や経験になりました。

——登場キャラクターのうち、お気に入りは誰ですか？

——『シュヴァリエ』視聴者へのメッセージをお願いします。

敵と味方が入れ替わったりと、非常にストーリー展開が複雑な作品なので、順を追って理解できるようにすると、面白さも倍増すると思います。