作品紹介シュヴァリエ

第13回 色彩設定  広瀬いづみの言葉ありき! 「イマジネーション」

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名前
広瀬いづみ(ひろせ・いづみ)
経歴
主な参加作品は劇場『DEAD LEAVES』(色彩設定)、『イノセンス』(色指定)、『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』(色彩設定)、TV『お伽草子』(色彩設計補佐)、『風人物語』(色彩設定)、『xxxHOLiC』(色彩設定)など。

——最初に『シュヴァリエ』の企画を聞いてどのような印象をもたれましたか?

今まで大河ドラマをやったことがなく、面白そうだなと思ったのと、フランスが舞台なので重厚な感じになるだろうと思い、ワクワクしました。

——今回の『シュヴァリエ』ならではの色づかいはありますか?

『シュヴァリエ』は、場所や、時間が変わることも多く、1話の中で一つのキャラクターにつき20~30種類の色指定表を作らなくてはいけないこともあります。

また、貴族の女性に関してドレスから出ているレース部分は“色トレス”にしたい、と監督からオーダーがありました。普通、アウトラインは黒い実線のままですが、“色トレス”はフリルの輪郭の線の色を変えなくてはいけません。色数も増えてしまうので、仕上げさんには負担になってしまったと思います。

普段だったら、うっかり派手な色も使ってしまうところなのですが、当時の服がどんな素材の布をつかっていたのかを考えました。時代が違えば服の彩度が全然違います。今の服はサテンも綿もありますが、当時の貴族は絹を使った服を着ているので、使い込んだ重い感じを出したいし、でも貴族は華やかにしたいのもあって難しかったですね。服の質感・素材感を感じれるよう目指す、というのが今回のテーマでした。

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シーンの時間や場所に合わせて、キャラクターの色も変えられている。

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色トレスという手法では、外枠の線にも色が付けられている。

——実際の色決めは、どのように行われているのですか?

監督にうかがって、作品の中で誰と誰が一緒によく出てくるのかを把握し、バランスよくキャラクターの色を選んでいます。どんな背景によくいるのかも重要で、いつも森など緑の中にいるのなら、キャラクターのメインカラーに緑系を使用するのはやめるとか、ルイ十五世のように王の執務室のような派手なところにいるのなら、服の色はシンプルな方が映える、など考えながら工夫して配色しています。

また、キャラクターの性格によって詩人は黒に、悪役風のキャラクターは寒色系に、というふうにまとめています。物語中でキャラクターがどんな生き方をするかを理解していないと、後で生き返るとか、実は2人のキャラクターが同一人物でした…などが起こると、判ってから「知っていたら、こうしたのに」と後悔してしまいますから(笑)

——監督とは具体的にどのようなやり取りをされているのですか?

まず、何パターンか作って監督の判断を仰ぎます。その中でも自分が一番気に入っている配色のものを最後に出したりしています(笑)。最終的には、監督の判断ですが、キャラクターの性質など、色々な要素を考慮して決めていますから、こちらから「こういう人と一緒によくいるから、この色がいいと思うんです」と、説明して納得してえるよう話しています。

——監督と、具体的なキャラクターの色のイメージは話されたのですか?

マリーは監督から“とにかく地味に”というオーダーがあり、ベージュにしました。ポンパドール夫人は“とにかく派手に”ということでオレンジ色を選びました。「マクシミリアンは金髪で」というオーダーは、テレビ局の方からも一番人気のキャラクターにしたいから、という意図もあったようです。あとはほとんど自由にやらせていただきました。ですが、物語がどう転がっていくのかと、キャラクター同士の関係性をその都度聞くようにしていました。実際、デュランのブーツがマクシミリアンと同じで白いのは、監督から「デュランが昔マクシミリアンに憧れていた」というお話をうかがったことが決め手でした。

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——作業される中で、お気に入りのキャラクターはありましたか?

サンジェルマンとブロリーです。自分がいつか試してみたいと思っていた色合いのキャラクターを、この二人で出すことができたんです。完成した瞬間に気に入りましたし、監督からも一発でOKが出ました。この二人の色は、朝色、夜色と色替えをしても崩れにくいんです。

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——キャラクター一体の色彩設計が出来上がるまで、どれくらいかかるんですか?

一回塗ってから、また次の日に見ますから、最低2日はかかります。時間があればあるほど考え込んでしまいますし、時間がなければ決断も早くなりますから、時間をかければいいというわけではありません。ただ、作業時間は2日でも、キャラクターデザインの線画をいただいてから、イメージを膨らませる時間が大切だと思っています。

——キャラクターデザインによって、イメージは変わってくるものなのですか?

描いた人の目論見を感じることがあるんです。例えばポンパドール夫人です。線が多くて塗る回数が多いということは、塗り分けができて、やろうと思えばフリルごとに色を変えることもできるんです。ですから、キャラクターにそれなりの派手さを求められていることがよくわかる。ファーストカットが宮廷の庭の緑の前でしたから、緑に映える色は柑橘系というのが思い浮かびました。柑橘系とはいえ、オレンジをどこにおいて、黄色をどこに置くかで派手さの印象が変わるんですね。そういうものが感じられるものほど、色々イマジネーションが沸きます。シンプルなキャラクターの方が逆に難しかったです。

——『シュヴァリエ』の作業で、どんなところに楽しみを感じていますか?

漫画の原作を忠実に再現するお仕事と違って、参考にするものがないところですね。夢路キリコさんが描かれたデオン=リアのドレス以外は原作の色づけがなくて、全部自分で考えられたことが楽しかったし、勉強にもなりました。そして、まだまだ勉強が足りないな、と実感しました。

——色彩設計の勉強とは、どんなことをするんですか?

やっぱり観察でしょうか。私は生活の中でうっかり見逃していることが結構あるので、色を決めるカットが手元に来てから「あれ?インクってどんな色をしてたっけ?」「水を手にすくった時、どんな色になるんだっけ?」と考えたりします。そんな時は、可能な限りシュミレーションしたりしています。

また、実際の色を忠実に再現するだけでなく、時には「もっと派手な色にした方が、肉が美味しそうに見える!」など嘘をつくこともあります(笑)。そう考えると、日常どんな風に物事を見ているかがばれてしまう職業かもしれませんね。『シュヴァリエ』でも、自分の体験から、色の配置を考え、工夫するよう心がけています。

——最後に、『シュヴァリエ』をご覧くださっている視聴者の方々に一言お願いします。

中世のフランスを舞台にして、こんなに真っ向勝負している作品は他にないと思いますので(笑)。是非観てくださいね。