作品紹介シュヴァリエ

第20回 演出・絵コンテ 伊藤秀樹の言葉ありき! 「出会い」

名前
伊藤秀樹(いとう・ひでき)
経歴
信州・上田市に居を構える作楽クリエイト有限会社 代表取締役
これまで手がけた作品は、『テニスの王子様』(作画監督)、『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』(作画監督)、『お伽草子』(作画監督)、『怪 ~ayakashi~ JAPANESE CLASSIC HORROR』(『四谷怪談』キャラクターデザイン・作画監督)、『交響詩篇 エウレカセブン』(作画監督)など。
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——『シュヴァリエ』に参加したきっかけを教えてください?

以前、『お伽草子』でも仕事をさせていただいた関係で、中武プロデューサーに声をかけていただいたのがきっかけですね。この『シュヴァリエ』は、まず企画のお話を聞いた時にストーリーがいいなと感じました。歴史もので、登場キャラクターが魅力的に描かれていたので興味を持ちました。他の一般的なアニメ作品と比較すると扱うモチーフやテーマが特殊なので、自分のスタジオで受けきれるのか心配な部分もありましたが、どうしてもやりたいと思い、スタッフィングを調整してお受けすることにしました。

——伊藤さんが担当された「演出」の作業内容について教えてください

作業としては、まず脚本を受け取って、監督と打ち合わせをしてから絵コンテを描いていくわけですが、古橋監督とは今回初めて一緒に仕事をさせていただきました。とにかく信頼の置ける方でこちらも頑張らなくてはと思いましたね。そして、脚本担当のむとうやすゆきさんの書くシナリオがどれも素晴らしくて、その面白さを殺さないように気をつけました。むとうさんが完全に『シュヴァリエ』の作品世界に入り込んで脚本を書かれているので、こちらも良い絵コンテを描かなくては、とかきたてられる感じでしたね。

キャラクターの立ち回りやしぐさなどの動作は、視聴者に分かりやすいようにムダを避けて必要な動きだけを表現するように心がけて描いています。実は、そうやってムダを減らすと動作の一つ一つが際立ってくる。そうするとストーリーの本質もクリアに見えてくるように思います。実際に絵を描く作業に入ってからの作業は、作画スタッフが仕事をやりやすいように、交通整理のような役まわりを中心にしていました。

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自身で担当した第5話絵コンテと実際の場面

——伊藤さんが代表取締役を務める「作楽クリエイト有限会社」について教えてください

自分は以前、いったんアニメ業界からは離れて、長野県 安曇野で建築大工をやっていた時期があったんです。そんな折、山を三つ越えた上田市にアニメスタジオを作ろう! という動きがあって、アニメの仕事をやりたい若者がいるなら、力を貸そうと思って参加することにしました。最初は、ほとんどのスタッフが新人という状態からスタートして、ちょっとずつスタジオの規模も大きくなって東京にもスタジオを持つようになり、ようやく悲願だった「グロス受け」が出来るまでになりました。とにかく、スタッフ全員がチームワークを大事にして、楽しく仕事が続けられるようにしたいと考えています。

——『シュヴァリエ』スタッフとの打ち合わせはどのように進められましたか?

古橋監督との打ち合わせで驚いたのは、判断の速さです。『シュヴァリエ』の制作が始まって忙しい中で、たくさんの打ち合わせを次々とこなしていく姿を見て、この人は頭のクロック周波数が自分とは違うんじゃないかと思うほどでした。その仕事振りを見て、作品の枠組みを作るというのは、監督じゃなければ出来ない仕事なんだと思い知らされると同時に、いろいろと勉強させてもらいました。

そして、むとうやすゆきさんの書くシナリオも凄くって、そこにはむとうさん自身の持つエネルギーが込められているように感じました。実際に話をしても非常に「熱い男」だなと思います。そんな中で自分が描いた絵コンテを評価してもらえた。監督や脚本家に喜んでもらえる仕事が出来たことは非常に嬉しいことで、『シュヴァリエ』という作品に参加したというよりもむしろ、呼ばれた、ひきよせられたという感覚のほうが大きいですね。

それから美術担当の大野さんには本当に助けられました。十分な時間がとれない状況でも、演出として「こうしたいんだ」という要望に対して、的確にこたえてくださいました。いつもすばらしい美術を仕上げていただいて、いくら感謝してもしきれないくらいです。作画に関して言えば、自分も絵描きなので、できれば自分でも描いてみたいという気持ちを抑えて、スタジオのまとめ役にまわったり、絵コンテの執筆に専念しました。ウチのスタッフがよくやってくれたので、本当に助かりました。そして作画については、スタッフごとに絵の持ち味が違うわけで、そのニュアンスを上手く活かせるようにスタッフィングを考えたりしています。

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自身で担当した第10話絵コンテと実際の場面

——実際の史実がベースとなる世界観ですが、演出する際に気をつけている点はありますか?

フランス革命前後という時代、民衆の半分近くは獣に近い粗野な部分も残した暮らしをしていたと思います。一方で貴族と呼ばれる階級の人々は洗練された生活をしていた。その両者のギャップというか、神と獣が同居しているかのような混沌とした時代の中で、あがきながら生きている人たちを描きたいというのが、『シュヴァリエ』で自分がやりたかったテーマです。その時代に生きていたであろう人たちの「想い」をどこまで汲みとって表現できるか? ということを考えていました。そして、外交官という立場のデオンが、母国フランスへの忠誠から任務に携わって様々な国をめぐり、色々なものを見聞するうちに時代の観察者となってしまったり、仲間は次々と死んで自分だけが生き残り、歴史の生き証人になるという、時代の残酷さを描くことで、『シュヴァリエ』という作品を表現したいと思いました。

あとは実際にフランス人がこの作品を見て、あまりにもバレバレな嘘を描くのはイヤだと思って、なるべく史実に基づいた表現になるように資料などもたくさん参考にしました。画面の情報量が非常に多いので、1回見ただけではすべてを汲み取るのは難しいかと思いますが、何回見返しても新たな発見があるようにしようと思って絵作りをしています。

——登場キャラクターのうち、お気に入りは誰ですか?

カリオストロですね!(笑) とても素直に気持ちが分かる、まるで自分なんじゃないかと思うくらい親近感が湧きます。呑ん兵衛でしたたかさも持っていて…でも本当は優秀な人物なんだと思います。貴族の生まれだったボロンゾフと比較すれば、カリオストロは平民の出で地位も名誉もない。だから理想のために生きるようなことはしなかった。でも、それが幸せだったんじゃないかと思うんです。若くて美しいロレンツィアと一緒に暮らしているだけでも最高ですよね(笑)

——『シュヴァリエ』視聴者へのメッセージをお願いします

毎週、見てくださっている方には、もう一度全体を通して見なおしてもらいたいです。きっと新たな発見があると思いますよ。そして、むしろまだ見たことのない方にぜひ見てほしいと思います。『シュヴァリエ』をきっかけにして、史実にも目を向けてもらえれば嬉しいですね。

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